情欲の火

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情欲の火

 見つめる俺の気配に気づいた百合が慌ててシンクに向けていた目をあげる。   そしてそんな百合の、ゆるっとした前開きのネグリジェのような部屋着は、なんか赤茶色いもので汚れてた。 「あ、あのっ!温めたの、移そうとしたら、ちょっとっ…」  大きなトレーの上には柔らかそうなパンと、傾いた皿から散らばった生野菜と、倒れたガラスの容器から転がる、ヨーグルトらしきものにまみれたフルーツ。あ、あと、空の深皿。  シンクの中では鍋がひっくり返って、百合の部屋着を汚したものの親分と思われる赤茶色のものがぶちまけられていたから、多分親分が深皿に収まるはずだったんだろう。 「ごめんね、何か、新しいのを……」 「はい」  慌てて、人でも冷やせそうなでかい冷蔵庫を振り返った百合の腰を抱くと、その口にちぎったパンを放り込む。  そして驚いたように目を開いた百合に、俺自身は手にしたパンでシンクに倒れた鍋の中の赤茶色ですくって口に入れた。 「これでじゅうぶん。うまいよ」  実際、酸味のきいたシチューのような食べ物はかなり俺の食欲をかき乱して、いまさら何か別のものを用意するまでおとなしく待ってるなんて無理な話。 「お行儀悪い。ママに殺されちゃう」  そう笑いながら百合もパンを手にすると、俺がしたように赤茶色をすくって口に運んだ。  くすくすと笑いあいながら生野菜を手掴みで食べたり、食べさせたり。 「あんっ!…もうっ…」  大きな鶏肉の塊を俺の口へ入れようとした百合の、指先ごと口に含んで歯をたて舌を這わせててやれば、一瞬にして百合の表情が色づいた。  「足んない。食わせて?」  抱いた百合の体が、少し硬くなる。  俺はゆるゆると鍋の中の鶏肉に指を伸ばした百合の手を、グッと押し込んでやった。 「っあ…」  指の第二関節のあたりまでが赤茶に染まる。  俺は百合の手を引き上げると、つられて引き上げられた百合の視線に見せつけるように、その手に舌を這わせた。  ふるりと、百合の体が震える。  ソースで汚れた指を百合に目を合わせたまま、いかにもな舌使いで、丁寧に舐めあげる。 「すごく……うまい」  昨夜泣きが入るほど感じまくった百合の体。面白いくらいあっという間に瞳は潤み、情欲の火が俺の黒い部分を照らし出した。 
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