初邂逅

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初邂逅

「どーも。まあ、どこの誰か名前を名乗ったところでピンと来ないと思うけど……」  せっかく気を遣って前置きしたのに、奴は意地の悪そうに薄い唇を開いて、呆気なく俺の正体を言い当てた。 「絆のバンドの」  男の口から出た名前。それだけのことが、トゲみたいに胸に突き刺さった。 「あれれ。ご存知?」  チクッとした痛みなんておくびにも出さず、ポケットに手を突っ込んですくいあげるように見る俺に向け、清澄は口をひらいた。  けど、そのまま口を閉じ、片手を上げて踵を返すと、百合の家にも負けず劣らずデカい奥まった自宅に向けて歩き出した。 「はい?」 「人違いだったようだ。じゃあ」  ムカつく奴。  ちょっとは慌てたら可愛げもあるだろうに。 「断れないアイツを無理から引きずり込んで、したい放題したくせに、捨てる時は簡単なもんだな」  後ろ姿に投げた言葉に、清澄が足を止めた。 「言ってる意味がわからないが」  背を向けてるから表情はわからないけど、焦るでもない平坦な声に募る苛立ち。 「教えてほしい? 冗談だろ。手間は省こうぜ」 「絆が君になにをどう言ったかしらないが、君には関係ないだろ」 「あるよ。あんたは俺を、不快にさせた」 「言いがかりだな」 「あんたの、手段を選ばないとこ、そんな嫌いじゃないよ。けど、絆にしたことは別だ」  清澄は肩越しに俺をみると、鼻で笑って肩をすくめた。 「は? なんだ。絆に惚れてんのか? ならもう別れたんだ。君の好きなようにすればいいだろ」 「別れた? 棄てたんだよ。むかつくけど、あんたが一方的にな! 綺麗に、さっぱりと合意の上みたいな言い方すんなっ! あんたは、犯して、逃げ場を無くして、棄てたんだよ!」 「犯した? 人聞きの悪いこと言うな。あいつはよろこんで腰を振ってたさ。最初から、それはそれは気持ちよさそうに、泣きながらヨガってたんだよ。相手にされないからって八つ当たりは……っ」  頭の中が、視界までが赤くなったみたいな感覚は、気のせいなんだろうか。それとも、血流のリミッターがおかしくなって、血の色を浮かばせるんだろうか。  まあ、そんなことを考えたのは後の話で、真っ赤なカーテンが俺の理性を隠してしまったんだ。  力を込めた拳は目の前のいけ好かない野郎の頬にクリーンヒットし、その体はフラフラと肩を壁につけて止まった。  殴ろうとか思ってなかったから、それを見て計算高い俺の部分が舌打ちする。  けど、根っこの俺は現実無視で喝采をあげてた。
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