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《最終話》アナベルの誕生日と舞踏会
王宮内はあちこち走り回るスタッフの足音や声で朝から騒がしかった。
今日はアナベルの誕生日であり、舞踏会の日でもある。アナベルの仕事も休みにした。
舞踏会の前に軽く食事をとるらしく、その場で国王夫妻とライオネルがアナベルの誕生日を祝ってくれた。
「アナベルちゃん、どうぞ。陛下とわたくしからよ」
王妃殿下が渡して下さったのは、ダイヤの飾りが付いた三連になったパールのネックレス、ネックレスの飾りと同じデザインのピアスにブローチだった。
「……!」
見事な品にアナベルは絶句してしまった。こんなに綺麗なものは今まで見たことがない。
「この先、王太子妃として外に出ることもあるからね。パールは使い勝手抜群だから持っておくと安心よ。二十歳のお誕生日おめでとう」
「アナベル殿、おめでとう」
「亡くなられたご両親もあなたの成長を喜んでいるでしょうね。そのご両親の代わりに贈らせてね」
この国では、娘の二十歳の誕生日に、親が一生ものの宝石を贈る風習がある。
二人の自分を思ってくれる優しい気持ちが嬉しかった。鼻の奥がツンとしてきて、アナベルは涙が出そうになった。
「どうしたの?」
「失礼かも知れませんが、両親にお祝いされているみたいで、二人のぬくもりを思い出してしまって……。両親が亡くなって、わたしは家族に恵まれませんでしたから」
アナベルは浮かんできた涙を拭った。ここの家族はいつも優しい。
「ありがとうございます。大切に使います」
「アナベルちゃん……」
「アナベル殿」
国王夫妻もほろりとして、場の雰囲気が湿っぽくなってしまった。
「俺は……これだ!」
ライオネルがスタッフに合図をすると、赤ワインのボトルが出てきた。
「二十年ものの赤ワインだ!」
スタッフはボトルの栓を開けて、アナベルのグラスにワインを注いだ。
「酔うといけないから、少しだけ味見するといい」
ライオネルは優しく笑った。
「でもわたし、酔わないよ?」
「念のためだ」
さっきから、うつ向いた国王陛下が肩を震わせている。笑いをこらえている? 王妃殿下はニコニコしているが。
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