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服が汚れたアナベルは、自分の住処である古くてこぢんまりとした別邸に向かった。
別邸は、本邸とは離れた場所にあり、周囲には木が生い茂っていた。そのため、太陽の光はわずかしか届かず、常に薄暗かった。
おまけに、元は白かった石造りの壁はところどころ黒ずみ、赤かった屋根も黒ずんで傷んでいる。
不気味で冷たい印象のする屋敷だった。
──ここにはよく動物が迷いこんでくる。
アナベルは、そんな動物を手下にして別邸やその近くに住まわせていた。
「大丈夫!? アナベル? ひどく汚れているけれど!?」
部屋に入ると猿のさる子がやってきた。さる子はアナベルの侍女的な存在である。手先が器用で頭の良い猿は何かと重宝する。
アナベルは汚れた服を脱いでさる子に渡した。
「ったくあの女、力一杯蹴りやがって!」
鏡を覗いて確認すると、背中が真っ赤に腫れている。
「はぁー、やってらんない」
鏡台の椅子にドカッと座ったアナベルは、背中の腫れに手を当て、力を込めた。
アナベルの背中に金色の光の粒が舞い、ゆっくりと腫れが引いていく──。
腫れが引いたあとは、さる子がアナベルの体を綺麗に拭いてくれた。
「ありがとう、さる子」
アナベルは、古びたクローゼットからボロ着を選び、急いで着替えた。
(もうすぐ夕食だ。早く厨房へ行かないと)
着替え終わるとさる子が髪を整えてくれた。できる猿、それがさる子。
母が他界してから、アナベルは働きづめだった。ケチなマニフィコが使用人を減らしたため、アナベルも働かないと本邸の家事が回らない。その上、忙しく働いていないとマニフィコがものすごく怒り、暴力を振るうのだ。二人の義姉もアナベルをいじめる為に、何かと用事を言いつける。
毎日忙しく、おしとやかな人間の友達とは縁が切れた。友達といえば、別邸に迷いこんでくる野生動物のみ。
だから自分を良く見せようと気を遣うこともないし、気を遣う余裕もない。よって、アナベルの言葉遣いはどんどん乱暴になっていった。
伯爵令嬢、一億年に一人の美女なのに勿体ないとパトロンの妖精は言う。
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