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一日の仕事を終え、別邸の自室に戻ってきたアナベルは、自分専用の食堂へ向かった。
「はぁー、疲れた」
古びた椅子にもたれかかり、脚を広げてだらしなく座る。
誰も見ていないから気にしない。いつもこうだ。
アナベルの住む別邸の家具は、すべてが古びていて、何度も何ヵ所も修理しているが、質も品も良い物だった。おまけに猿が毎日綺麗に掃除してくれるので、なかなかの住み心地だ。
「さる男! はやくワイン!」
「はい、只今」
執事のさる男である。さる子とさる男、くま以外の動物に名前は付けていない。アナベルに名前をもらうのは、手下の動物にとって超光栄なことだった。
アナベルはさる男の持ってきたロッシ原産のワインを一口飲んだ。
芳醇なぶどうの香りが鼻に抜けて、まろやかな甘味を感じる。一口飲む度に疲れた体に甘味が染み渡り、体を癒していく。
(でも、なんかおかしいのよね? 美味しいんだけど全然酔わない。お酒を飲むと普通はホワホワといい気分になるんじゃないの? わたし、お酒に強いのかな?)
この国の決まりで、お酒は20歳になってから。なので、さる男は本邸からかっぱらってきた高級葡萄ジュースをワインと偽って出していた。
──アナベルの前には高級葡萄ジュースと共に豪華な食事が並んでいく。
材料は本邸の厨房やその辺から猿がかっぱらってくる。調理はもちろん猿。とにかく猿は重宝する。
(猿がいて良かったわ~)
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