崩れ出す日常

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「志希様!寮までお送り致しますよ」 「あら、佐久間ちゃんの寮と反対方向でしょ?良いのよ、気にしなくて」 「いえ、私が……」 「たち…ば、な」 会議が終わって佐久間と話していると後ろから小さい声で話しかけられる 振り向かなくてもこの喋り方で分かる、生徒会書記の戌井 蓮……そして俺は 「あらぁぁ!蓮様じゃない!アタシに何かご用かしらぁ?」 こいつの親衛隊である ちゃんと親衛隊としてこいつに好意があるように振る舞う。我ながらこのオネエ相当気持ち悪いと思うけどやらない訳にもいかないし、話しかけられてることに嬉しそうに反応しなきゃ 「ん……ちょ、っと、…は、なし……いい…?」 「えぇ、えぇ!もちろん!…あ、佐久間ちゃんごめんなさい、先帰ってて大丈夫よ」 「…いえ、志希様……」 「たち、ばな……お、れ……おく、る。だ、から…だい、じょぶ……」 「いや別……んんっ、まぁっ嬉しい〜!」 「……………畏まりました。…では、書記様。私の委員長をよろしくお願いしますね」 なんかごめんね佐久間ぁぁぁぁぁ すっっっごい目で戌井を見てる……そりゃそうだよな…断ったとはいえ先約を疎かにしてるようなもんだし…… 今度お詫びにクッキーでも持っていこう そうこうしてると全員が既に退出しており会議室には3人しかいない。ギリギリまで引き下がろうとしてた佐久間もしぶしぶといったように部屋を出たから今は2人きり。 ……ん?てかちょっと待って??話って何?? 「……たちば、な……おれい……いいたく、て……ありがと……」 「あ、あらぁ?アタシ蓮様に感謝されるようなことしたかしらぁ?」 「ん……しんえ、たい……ほかの、せいとも……まとめ、てくれ…てる」 驚きのあまり一瞬固まってしまう まさかそれを生徒会に言われる…しかも感謝されるとは思わなかった でも、そうか……今日戌井はあのマリモに落ちた様子ではなかったしこれからあいつを好きになるかもしれないにしても、今日のことは彼の本意ではなかったのかもしれない。戌井は生徒会の中では1番親衛隊を大事にしてくれてるし でもそれにしよわざわざお礼を言うために呼び止めるなんて律儀だな…… 「…それでもやっぱり感謝されることでもないわ。アタシがあの子達のことが好きでやってることだもの。」 「そっか……ん、…いい、こ……」 「……え?」 ……今、俺、頭をポンポンって撫でられてる…? …俺、一応178くらいはあるんだけど……あ、でも戌井190だわもっと高ぇわ 10cmくらい差があればそりゃ頭……… いや、それでも頭撫でるって何???? ワンコがオネエの頭撫でるとか聞いたことねぇんだけど!? 困惑中の俺を余所に髪を梳くように撫でられ、ようやく満足したかのように手を離される 「たちばなの、かみ……さらさら……きれ、い」 「えっ、あ……ど、どうもありがとう〜!お手入れ頑張ってるからぁ、嬉しいわぁ〜」 何とか調子を取り戻すが心臓がバクバクいってる 頭撫でられるとか大牙にさえほとんどされたことはない。暖かい手のひらは、幸い嫌ではなかったものの柄にもなく照れてしまった 「そろそろ、かえろ……おく、る」 「別にい………んん、じゃあお願いしようかしらぁ〜」 あぶね、また思わず別にいいって言ってしまいそうになってしまった 学園内なのにわざわざ寮まで送ってくれるなんてほんとやっぱり律儀なんだよなぁ これだけ顔が良くてこんな対応されたら確かに惚れるのも分かる 「なに?かお……なんか…ついて、る…?」 気づかないうちに顔をじっと見つめていたみたいで戌井が不思議そうに首を傾げる 「え、いや……やっぱり整ってるなって思って……」 って何言ってるんだ!? ぼーっとしすぎだろ俺! 「この、かお……すき?」 「え?」 「おれ、の…」 「も、もちろんよ!当たり前じゃなぁい!アタシ、貴方の親衛隊だもの」 「ふふ……そっか……」 くっそ、ふにゃって笑うと可愛いなぁ! チワワとかとはまた違う、そう、大型犬みたいな可愛さがある。俺犬好きなんだよなぁ 戌井は大型犬みたいだし優しいし何より…… 「あ…、ついた、じゃ……たちばな、ばいばい……」 無害〜〜〜〜〜〜!!安全!!! いやまぁこんな自分の親衛隊でキャッキャしてるオネエ襲うわけないけどさ?? 俺副会長とか他の生徒会役員に嫌われてる自信あるから、ほんとに好意も敵意もない戌井の存在は割と有難い。 根から優しいし分け隔てないから俺みたいなのにも優しいんだよなぁ 「えぇ、蓮様ぁ、ありがとうございまぁす」 別れを惜しむようにしつつも送り出す 後で佐久間に寮に着いたって連絡しておこう、心配してくれてたみたいだし…… 「……あ、…わすれもの」 「え?」 忘れ物?何か預か……いや、それはないし。 あ、俺に言い忘れてたことでもあったか? 「たちばな」 「はぁ……い……?」 呼ばれて顔をあげると目の前いっぱいに広がる美形、美の暴力。 うわそうだわ身長のせいで今までしっかり顔拝んだことなかったけどこいつも生徒会なんだからくっっそイケメン ……で、そのイケメンが何で目の前に… 気づいた時にはもう遅い。身を引く間もなく綺麗な顔がスっと近づいてきてちゅ、と小さなリップ音と共に額に口付けられる。 「ふふ……こっち、みた……じゃ…こんど…こそ、ばいばい……」 くすくすと笑う戌井が満足そうに帰っていく 対して俺は状況が上手く飲み込めていない 何故?という疑問とからかわれたんだろうという答えが頭をぐるぐる回る 脳が回っていないのか現実から逃れたいのか、とにかく今日1日疲れすぎた俺はふらふらと寮の自室へ戻る この時、俺はすっかりこれからの事を忘れていた
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