崩れ出す日常

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「どう?お味は」 「ん……んまい」 「良かった、んー…でもやっぱ今日食べた唐揚げの方が美味しいな。当たり前だけど」 今日の昼も食べてたからやめようかとも思ったけど大牙は特に唐揚げは大好きだし前回同じ理由で入れなかったら拗ねたからな でもやっぱり肉の柔らかさやカリカリの衣は断然向こうの方が上な訳で 「……俺はこっちの方が好きだけど」 「お前……百点満点の回答だよ、未来のお嫁さん喜ぶわ」 「…ばーか」 その後も何度か感想を貰ったりくだらないことを喋ったりして無事完食 皿を洗う為に立ち上がり、大牙は食器を持ってきてくれる 「あー、大牙。お風呂入ってきた?まだなら先お風呂入っちゃって」 「んじゃ借りる」 プレート式に盛り付けたから洗うものはいつもより少なくて助かる 大牙が上がるまで暇だな……あぁ、そういえば佐久間にクッキー持っていこうかと思ってたんだっけ 丁度材料もあるし作るか、ついでにお茶会という名のお悩み相談室に持っていこう 思ったより多くの人が来るし委員のお菓子を持っていくのは注文するとはいえやはり申し訳ないし そうと決まれば作れる限り作るか、最悪余ったら俺のおやつにしよう 大牙が戻るまでにクッキーの生地を作っておこう、風呂上がりまで寝かせておくのが丁度いい そうしてクッキーの生地が出来た頃、大牙がお風呂から上がってきた 「何してんだ」 「クッキー作り。委員と親衛隊の皆にね。そうだ、量多いから手伝って」 「……まぁ」 「まぁ寝かせなきゃいけないから俺が上がった後だけど。待ってて」 「あぁ」 生地と大牙を置いて風呂へ向かう 湯船に浸かり、ほう…と息をつくと程よく体の力が抜けた 疲れもあり久しぶりに心做しかゆっくりと入った気がする 「お待たせ」 「ん、」 大牙がドライヤーを持って待機している 長い髪の毛を乾かすのが面倒な俺に代わって大牙が来る時はいつも任せている 大人しくソファに座ると大牙がその後ろからドライヤーを当ててくれる 「お前……ちゃんと乾かせよ」 「………乾かしてるよ」 「いつ?」 「ね、寝る前……」 「はぁ………ちゃんとすぐに乾かせ。痛むぞ」 「あーもう、いいんだよ、たまーに大牙が念入りにケアしてくれるし」 「ったく……」 ドライヤーの音とサラサラと髪を梳く大牙の手 おなかいっぱいだしさっぱりしたし何より暖かい やばい……眠くなってきた……… すっかり反応がなくなった志希に大牙はドライヤーを止める 「志希………志希?お前また寝て……」 大牙は起こそうとするが途中で思い直したのかそのままにしておく 仕上げにヘアオイルを塗られ、丁寧に櫛で梳かれた長い黒髪は艶々としている そのひと房をそっと手に取りサラリと梳く 溜息をついた大牙はそのままキッチンへと向かった 冷蔵庫から取り出したクッキー生地 生地まで作ったならあとは形を作って焼くだけだ 志希がクッキーを作っているところは数度見たことがある 本人は意識してないのかもしれないが志希は感謝や詫びの品として手作りのスイーツを作るのだ いつも貰うのは大牙を中心とした周りだったが今回は違うらしい 「……ただ手伝ってやるだけじゃ面白くねぇよなぁ?」 面白いことを考えた、とばかりに笑い実行に移す 志希を狙うあの抜け目ない後輩に牽制でもしてやろうか 「ん………?」 数十分後、志希が目を覚ます いつの間にか寝てしまったようだ、やっぱり疲れてるんだな…… 体を起こすとキッチンから甘い香りが漂ってくる 寝ぼけた頭でふらふらとキッチンに赴くとなんとあの大牙がクッキー作りをしている 「……え?」 「起きたか」 「え、え、これ大牙がやったの!?」 「あぁ、」 「え、凄い……ココアとプレーンに別れてるし……形もよくこんなに作ったね?」 「お前が昔作ってたとこ見てたからな」 「へぇ〜、凄い!…ん?心做しかココアの方ハート多いね」 「駄目か?」 「んーん、可愛いからいいよ。丸とハートはまだ焼きやすいし」 2色の形様々なクッキー生地達をまじまじと見つめる 綺麗な形にくり抜かれているし何より手際が早い 数十分しか眠っていないはずなのにほとんどできてしまっている 「もう全部やってくれたの?」 「いや。……苺、お前が前作ったことあっただろ。あれ食いたいから残した」 「あぁあれ?いいよ、生地は……これくらいなら俺と大牙で食べきっちゃおうか。それにしてもあれ好きだったなんて初めて知ったな〜」 いつもはプレーンとココアなんだけど1回だけ苺味で作ったことがある 2つに比べて少し手間がかかるし多くを作るには向いていないからそれ以降作ってはないけど 「ん、じゃああとは俺が作るよ。大牙は休憩してて」 寝てた間にほとんどの作業を終わらせてくれていた大牙への感謝としてせめてこれくらいは自分で作ろうと思う 苺味を混ぜ込んで成形して……数も少ない為案外すぐに終わってしまう あとはこれらをまとめてオーブンで焼くだけ 片付けを終え、ソファの大牙の隣に座る お互い何を喋る訳でもない無言の時間でも不思議と苦にはならない 待ち時間に仕事の確認とアポ取り 急に声を掛けたのにも関わらず快く許可してくれる人達に感謝が込上げる、向こうも忙しいだろうに 時間を決め、また仕事の確認をしているとオーブンから甘い匂いが漂ってくる チンッという軽快な音と共にクッキーが焼き上がった
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