崩れ出す日常

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「お、成功してる」 オーブンから取り出したクッキーは見た目は今までで1番の出来。まぁほとんど大牙が作ったやつだから何とも言えないんだけど でも苺も綺麗に出来てる。苺は複雑な形にせず丸とハートに統一した 薄いピンクのハートとか思った以上に可愛いな まぁ食べるのは可愛さの欠けらも無い男2人なんだけどね 「焼きたてのうちに食べちゃおう」 「おう」 苺のクッキーだけ救出しお皿に盛り付ける 雅楽代ちゃんに貰った超美味しい紅茶を2人分淹れてテーブルに置いた 「いただきます」 焼きたてのクッキーを口に入れるとサクサクホロっとしてて美味しい 苺の味もほんのり感じて結構上手く出来たのではないかと思う 「どう?」 「ん、美味い」 「成功して良かった、それにしても大牙苺のクッキー好きだったなんてね。知らなかった。」 「……お前が作る菓子の中で一番好きだな」 「え〜〜嬉しいこと言ってくれるじゃん、そんなに喜んでくれるならまた作ろうかなぁ」 食後とはいえクッキー少量はペロリと平らげてしまうのが男子高校生なんだよな いつの間にかクッキーは消えてて……いやまぁほぼ大牙が食べたような気がするけど まぁでも薄いピンクのハートのクッキーを口に入れる姿は結構面白かった 後片付けと共に作った他のクッキーをラッピングしなきゃいけない 心做しか多めに作ったから余るかもしれないけど、もしかしたら普段お世話になってる人に会うかもしれないし全てを包んでおくことにした 「誰に渡すんだ?」 「え?えーっと、晴人と佐久間と雅楽代ちゃんと……あと藥丸」 「誰?」 「雅楽代ちゃんの従兄弟の1年生。新条の推薦で今美化に仮入してる」 「何でそいつに渡すんだよ」 「いやぁ今日会ったんだけどやっぱり従兄弟だから雅楽代ちゃんに似てるんだよね〜、目とか細かいパーツがさ。ついつい凝視しすぎちゃって初対面の1年生に悪いことしちゃったなぁって」 「……お前ほんと雅楽代好きだな」 「雅楽代ちゃんは俺の女神だからな」 「…貸せ、俺も手伝う」 「いいの?このクッキーもほとんど作って貰ったようなもんだけど」 「その方が早く終わるだろ」 確かに結構な量があるから大牙に手伝って貰うとその分早く終わる お言葉に甘えてラッピング用の袋を渡すと手早く、非常に綺麗な包みが出来ていくもんだからまたもや何とも言えない気分になる ほんっと器用というかやはり大牙は何でも出来るな 「…よし、これで終わり。大牙ありがと〜!1人だとこれ以上時間かかってたと思うとゾッとする」 何だかんだと各々用事を済ませつつようやく袋詰め作業が終了した 時計を見ると何と23時を過ぎている 途中でクッキー食べたりしたからなぁ…… それでも手伝って貰わなかったら24時は軽く超えていただろう 「……おい志希、これ渡して面倒なことなったら俺の名前出せ」 「え?」 「お前の過激派が暴走するだろ、俺が作ったって言っとけ」 「えぇ……?じゃあ…遠慮なく?」 「分かってねぇなお前」 過激派って……いやそんな暴走とかするか? と思ったけど今日の7限を思い出して一瞬有り得るなと思ってしまったのが悔しい こうなったら有難く名前を使わせて貰おう、何だったら大牙が作ったって言った方が喜びそうだけど 「ほら、もう寝んぞ」 「え、早くない?ゲームとかしない?」 「お前明日からも忙しいだろ……今日はもう寝る」 「えーーーケチ」 「うっせ、ほら早く入れ」 大牙に半ば強制的にベッドに連れていかれる まぁ確かにゲームをしたい気持ちもあるけど体が睡眠を求めているから大人しく従っておくことにしよう 大人しくベッドに入ると大牙が反対側に入ってくる 「…なに、いつも頼んでも入らないくせにどういう風の吹き回し?」 「一日目で既にざまぁねぇじゃねぇかよ。せめて熟睡しとけ。」 ほんとぶっきらぼうな癖して優しいんだからなぁ 中学の時色々あって一時期1人で寝れなくなってしまった時があった といっても信頼してる人以外は駄目でしばらく寝れない日が続いて、その時初めて大牙に一緒に寝てってお願いしたんだっけな その後も何回かお願いしたけど自分から入ってくれるのは初めてだ 高校に入ってからは1人で眠れるようになったはものの、忙しい時や不安定な時はどうしても熟睡出来ない この学園内で一緒に寝れるのは大牙だけだし正直死ぬほどありがたい 「やっさしー……あー……眠くなってきた。…ありがとね大牙」 「……おー…」 「ん………おや、すみ……」 すぅ、と息をつき眠りにつく志希 大牙はその様子を見届けて隣に寝転んだ こうして志希と寝るのはいつぶりだろうか 確か2年生の中頃、志希が壊れてしまった時以来だったか こうして志希が頼れる人がこの学園で自分1人だと思うとどこか優越感を感じる 「……危機感ねぇなぁ…」 中学時代……いや、志希は気づいていないかもしれないが今でも色々な奴に狙われてる志希はそれにしては危機感が薄い 言ってしまえば俺だってあいつらと同じ男だ 完全に安全とは言えないだろうにこいつは1度信頼すると疑おうとしない それとも疑いたくないのか 安心しきって眠る志希の顔を見つめ、はぁ、とため息をつく まぁ手を出すつもりはない 何も知らずにこいつに手を出そうとする不埒な輩を遠ざけるのが俺のやるべきことだ あくまで一番近しい友人として 全てひっくるめて飲み込んで、目を閉じた
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