崩れ出す日常

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誰もいない廊下を1人で歩く 人がいなくて良かった、顔が暑い、パタパタと手で扇いで冷まそうとしても効果なし うわぁぁぁぁ何であんなこと言ったんだろう… 勢いのままにいつか抱いてやるとか言ったけど普通に無理、あの大牙が抱かれてるとこなんて想像つかない 多分大牙があんなに粘ってたのも俺と同じ心境だったに違いない、男に抱かれるとか嫌だよな、すまん大牙許せ 昨日の空き教室に着くと既に生徒が並んでいる 昨日と違う点は全員が争わずに綺麗に整列しているところくらいか 「あら、お待たせしちゃったかしら?急いで準備するわね、もう少し待ってくださる?」 「いえ!我々のことはお気になさらずゆっくりとなさってください!!何時間でも待ちますので!!」 「まぁありがとう。お気持ちは嬉しいけど流石に申し訳ないわぁ……直ぐに呼ぶから良い子で待っててちょうだいね?」 「はい!!!!!」 おおぅ……さながら軍隊のよう…… まぁ昨日は逆に手をつけようにない状況だったし静かに待っててくれる分にはありがたい 教室に入り急いでお茶の用意をする お菓子は人の手作りとか駄目な人もいるし、何なら素人の手作りでシンプルなものだから普通のお茶菓子と選べるようにしておく 外で見た感じ大丈夫そうに見えたけど部屋に入った瞬間泣き出してしまう子もいるからリラックス効果のあるアロマを焚いて…… 「はぁい、準備出来たわぁ。最初の子からどうぞ~」 「は、はい!失礼します」 入ってきたのは先程何時間でも待ちます宣言してくれた子、親衛隊の中で見たことがある 恐らく双子の親衛隊だ 「あら、そんなに緊張しないで?何も取って食いはしないわよ。お茶は紅茶がいいかしら?ハーブティーやコーヒーもあるけど」 「お姉様が手ずから……!こ、紅茶でお願いします!!」 「はぁい、あとお茶菓子はどちらがいいかしら?普通のとアタシが作ったのがあるのだけど」 「お、お姉様の手作りですか!?!?」 「えぇ、でもシンプルだし素人の作ったものだからお口に合わないかも」 「いえ!!!!手作りで!!!!お願いします!!!!!」 「あ、あらそう~?じゃあこっちを準備するわね」 食い気味で押されて若干顔が引きつってしまう だがこんなに全力で手作りがいいって言ってくれるのは普通に嬉しい、自分で思ったけど先輩の前で市販品か手作り選べって言われたら普通市販品選べないよな 今度から聞き方考えるか…? そうこうしてるうちにお茶もお菓子も用意出来た、それらを彼に出してから自分も席に着く 「さて、ゆっくりでいいからお話してちょうだいな」 「あ、ありがとうございます!…あの、僕、双葉様の親衛隊で………。お二方は元々楽しいことや面白いことがお好きですから、僕はあの転校生のこと、そこまで嫌いではないんです。僕達では双葉様を楽しませることは出来ないですから」 少し悲しそうに笑う彼は本当に双子のことが好きなのだろう 一口お茶を飲んで、もう一度口を開く 「でも、あの転校生は様々な人に嫌われています。生徒会の方々のみならず、他のランキング上位の方々にも声を掛け……魅了しているようですから。もっと、この学園に波乱をもたらすでしょう……もし、もし生徒会の皆様があいつに堕ちたら、リコールの可能性も出てきます!僕、怖いんです…!」 「大丈夫、大丈夫よ。落ち着いて。ほら、ゆっくりと深呼吸して……お茶を飲みましょうね」 堪えきれず彼の目からポロポロと涙を溢れ落ちる 彼の後ろに周りそっと背中を撫でながら一口紅茶を飲むよう促す ゆっくりとお茶を飲んで、どうやら少し落ち着いたようだ 一連の話にふつふつと怒りが込み上げる こんなに彼らを想い、生徒会の行く末を案じて涙する子を裏切るあいつらが許せない 自分の立場や影響力を考えない権利者程迷惑なことはない 俺的には仕事をせずに学園に混乱を引き起こすならさっさとリコールされればいいと思うが彼らを想う親衛隊はそうはいかないのだろう あいつらのことはどうでもいいがこう涙している子を放っておくことは出来ない 「大丈夫よ、そうねぇ、もし生徒会がお仕事しないようになったらアタシが喝入れに行こうかしらぁ、すぐに正気を戻して差し上げるわ。…それに少なくとも蓮様はこの状況を悪いと思ってくれているわ、あの方がいるなら大丈夫。……こんなに想ってくれている子がいて幸せね。」 「お、お姉様ぁ……ッ」 「ほらほら、我慢せずに泣いておきなさい。」 うるうると大きめの瞳が潤み、再度涙が零れる 俺はそれを見守ってせめてものの背中を撫でてあげることしかできない。聞き上手なんて言われるけど泣いている子に声を掛けることは苦手だ。精一杯泣く子に向かって何を言ってあげられる訳でもない、ただ寄り添うだけしか出来ないけど、それで少しでも気持ちを和らげることが出来ることを願うしかない 元々強い子なのだろう、数分もするとすっきりしたようでまだ涙で濡れた顔で笑顔を見せてくれた 「ありがとうございます、お姉様。もし1人で抱え込んだり、同じ親衛隊の皆とだけ話をしていたら…取り返しのつかないことをしていたかもしれません。聞いてくださってありがとうございました、もう僕大丈夫です」 「そう…良かった、アタシこそこれだけしか出来なくてごめんなさいね。でももし何かあったらすぐに言いなさい、伊達に貴方達のお姉様やってないんだから」 「はい!ありがとうございます!」 彼は礼儀正しく一礼すると部屋を去る 少しでも気が楽になったのならそれでいい 俺がしてあげられることはこれだけしかないしそれが少しでも助けになるなら…… 俺は冷めてしまった自分の分の紅茶を、複雑な感情と共に一息に飲み干し、次の生徒を迎える準備を始めた
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