崩れ出す日常

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昨日と同じく食堂までの移動中 確かに昨日も視線は向けられていたけど、今日は一段と凄い気がする 「…佐久間ちゃん」 「はい、何でしょう志希様」 「アタシ何だかすっごい見られてる気がするんだけど」 「志希様は夏の間も滅多に肌を露出しませんからこと珍しいのかと。……もう少しネクタイを上に上げる気はありませんか?」 「やァよ、ただでさえジャケットもベストも無くてヤなのにネクタイ上まで締めたら野暮ったく見えるでしょう」 ファッションについてはオネエキャラをやる上で必死に学んだところだし妥協はしたくない このキャラを卒業までやり通すと決めたからにはちゃんと美しくありたいと思っている 辛うじて佐久間に借りれたネクタイは上まで締めず第1ボタンは開けている、袖も2回ほど折って捲り全体的に少し露出を増やした いつもは夏の間も制服の素材などを変えてなるべく露出は控えているが無いなら仕方ない ジャケットやベストなどがあれば別だがシャツだけでは露出がない方が野暮ったく見えるし美しく見えない いつもは下ろしている髪を高い位置でポニーテールにしたらまぁ先取りしすぎた夏感は否めないが即席で出来る範囲にはなった まぁ既に運動部なんかは夏かと見紛う程の格好もいるしそこまで浮くことはないだろう 「ベストやジャケットも是非お貸ししたいですね」 「あら、ピッチピチの服着たみっともない姿見たいかしら?」 なんてやり取りしてたらいつの間にか食堂の扉の前、………何かデジャブ感じるのは気の所為だと思っておこう 「志希様、開けますよ。ご覚悟くださいね」 「……ええ、分かってるわよ。」 佐久間が扉を開けると同時に一歩踏み出す 途端、食堂内がシン、と静まり返る 初めてのことに内心戸惑っているが表情には出さずに食堂内を見渡す 大牙達は目立たない所にいるだろう、キョロキョロと見渡していると佐久間が見つけてくれた 扉から少し離れ、見えない位置に座る2人の元へ行き、大牙の隣に腰掛ける ふと2人の顔を見れば目を驚いたように見開きこちらをじっと見つめたまま固まっている 「…あら、お待たせしちゃったかしら?ご機嫌いかが、ハニー」 「……誰がハニーだ。」 おぉ、大牙がフリーズから戻ってきた しかしそのままため息をついて項垂れている 「……橘氏、その格好、何…?」 「変かしら?ちょっとしたイメチェンよ、イメチェン」 「いや変というか……似合いすぎというか……」 「何よ、はっきり言いなさいよ」 「大変えっちすぎて死人が出そうです、というか絶賛進行形で出てます」 「は??」 晴人がプルプルと震えながら俺の後ろを指差す 振り向くと入ってきた時よりも明らかに人が減っており、見える範囲だけでも何人もが倒れていたり腰が抜けたように床にへたりこんでいる 「普段から禁欲的な格好をしている人が脱ぐとな、人は死ぬんだぞ、橘氏」 「えぇぇ…?いや脱い……えぇ?」 「いつもは重ね着で見えない体のラインや腰!シャツからチラッと覗く鎖骨や首筋!!おまけにポニーテールが揺れる度に見えるうなじ!!!これらを惜しげもなく……!!全く、ご自身の魅力をお分かりでない!!」 「ちょ、晴人ちゃん落ち着いて……!」 他の席にも聞こえる大声で叫ぶ晴人に周りもうんうんと頷いている そう言葉にされると何だか恥ずかしくなってきてしまうし、視線が痛い 「何よぉ……!じゃあ髪…外すわよぉ!!ボタンも止めればいいんでしょ!?」 「いやレアキャラで大変萌えますし需要しかないんでどうかそのままで」 「なんなのよぉ……」 大牙に助けを求めようと隣を見るとちょうど視線がかち合う 再度ため息をつかれると同時に肩にふわりとジャケットを掛けられた 「え、大牙……ありがとう」 「はぁ………で、お前何でこんな格好してんだよ」 「えっとぉ……」 「黒河様、私のせいです。私が背後から突然お声掛けしたせいで志希様は驚いて紅茶を服に…….熱い紅茶で火傷ま」 「はぁ!?おい、何処火傷したんだよ!」 「や、そんないうほどじゃないわよ!少し舌を火傷しただけで……」 「おいコラテメェ……見せろ。早く」 「ちょ、まっ…」 ガシッと頬を掴まれ無理やりこちらを向かされる 咄嗟に抵抗しようと口を開くと、今度は顎を掴まれてしまった 今の状態で無理に抵抗しても無駄だろう、最悪こっちが舌を噛んでしまいそうだ 大人しくしていると口の中の火傷を確認し終えた大牙にようやく解放される 「…人の口の中をまじまじと見るもんじゃないわよ……」 「…悪かったよ、ついな」 「はぁ……で、どうだったのよ、火傷の具合。アタシちゃんと確認してないの」 「あぁ、確かに舌先ちょっと赤くなってっけど大したことない。ただ辛いものとか刺激を与えるのはやめとけよ」 「えぇ〜、アタシ坦々麺食べたかったのにぃ」 「また今度にしろ」 「はぁい」 大牙の気も済んでようやく食事、ということで顔を上げると今度は晴人が机に突っ伏してしまっている 「……どうしたのよ、アンタ」 「ねぇ何でそれで付き合ってないとか言うの!?まだ!?もう認めろよぉぉおお」 「は?何言ってるのよ」 「もうその距離感夫婦だろうよぉぉ!!!」 「あら、夫婦ですって。ハニー」 「だから誰がハニーだ」 何だいつもの発作か、心配して損したわ そんなことより佐久間を立ちっぱなしにさせてしまった 折角ここまで送って来てくれたのに しかもちょっと忘れていたからついいつものように話してしまった…… 「佐久間ちゃんほんとありが……佐久間ちゃん?」 「……はっ、はい!」 「大丈夫?無理はしないように……」 「…いえ、志希様が黒河様、水川様と話していらっしゃるところを初めて間近に見まして……志希様が今までに見たことがない程楽しそうに見えました」 「そ、そうかしら?確かに気心知れた仲だからそう見えるのかもしれないわね」 「えぇ、…私もいつか志希様にそのお顔を見せて頂けるような存在になれるよう精進します。…それでは、失礼します。志希様」 「え、あ、あぁ……またね、佐久間ちゃん」
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