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第十三話 てけてけ
「今日はこちらの心霊スポットにやって来ました〜〜!」
「イェーイ!!」
セルカ棒を持ってはしゃぐ3人組。
「その名も〜、人食い踏切〜!」
「痛ましい事故を皮切りに、次々と人を食うように人身事故が相次いでいる事からその名が付いたようで〜す」
「では、早速渡ってみましょ〜」
「お、さっすがショウヤ君。勇気がありますね〜」
「あ〜、向こうは暗すぎて見えませんね」
「……ショウヤ〜、そっちはどうだ〜!」
「…………おーい、ショウヤ〜」
「返事しろ〜」
「…………」
「な、なぁ」
「…………」
「お、おい!なんだよこれ……ドッキリか!?」
「……あっ」
「朝比奈先生、おはようございます」
真理は朝比奈に挨拶する。
「あー……うぇ……」
返事をしようとしたのか、愛衣は口を開け発声するが、涎が絡まりうまく発声できない。
「……はい、キレイになりましたよ」
朝比奈の顎周りの涎を拭く真理。
「ひっ……うぇひひっ……」
心なしか朝比奈も嬉しそうにしている。
「よかった。……また来ますね」
そう言って真理はその場を立ち去った。
「おまたせ、ジル」
外に出た真理はジルに呼びかける。
「ピーッ」
ジルは元気よく鳴き声を発し、真理の肩に乗った。
「ジルだけは無事でほんとに良かったよ」
「ピピ!!」
幼魔化し、小鳥の姿になってしまったジルだが、言語を理解する能力だけは無事に残っていた。
「返事がなんて言ってるのかわかんないけど、まあかわいいしいいや!」
「ピ、ピピピ!!」
多分怒っているジル。
『──怪異警報。苗水町周辺にて怪異発生。クラスレジェンド。周辺住民の方は、両手で歩く巨大な怪異に注意し、決して足で素早く逃げようとせず、手で這って逃げて下さい。繰り返します──』
「怪異警報!……近い!」
真理は走り出す。
「行くよ、ジル!」
「ピ!」
ジルは慌てて真理の背中を追いかけた。
薄暗い路地。その先の電灯。
「……あいつが」
上半身のみの姿。異様に細長く発達した両腕でそれを支える。頭部は退化し、代わりに下半身の先に異様に肥大化した口。
うっすらと明かりに照らされた異形の者。かの者こそ……。
「ピー」
「てけてけだ……」
真理は両手を上げ、戦闘の構えを取る。
「先手必勝っ!」
素早く距離を詰める真理。放った飛び蹴りはてけてけの背中に命中。てけてけは勢いのまま、ゴミ置き場へ突っ込んだ。
「……っ!!」
勢い良くゴミから飛び出すてけてけ。真理はそれをしゃがんで避ける。
「もう一度くる!」
今度は上段蹴りで迎撃。
「なっ!」
それを読まれた真理。てけてけは突き出した足を掴み、大きな口で噛み付いた。
「しまっ……!!」
そのまま、獣が獲物を屠るかのように振り回すてけてけ。真理は壁や殿中に体をぶつけダメージを受ける。
「ぬあぁっ!!」
なんとか体を翻して抜け出す真理。しかし、それにてけてけは素早く追いつき、強烈なパンチを真理の顔面に命中させた。
「ガッ……」
吹き飛ばされた真理は地面に叩きつけられ、軽い脳震盪を起こす。
「くっ……そ……」
なんとか立ち上がろうとするも体に力が入らない。てけてけは、その大きな口を開き真理に襲いかかる。
真理は思わず目を閉じた。
いつの間にか、真理は真っ白な空間に横たわっていた。
「また負けそうになってるのか」
そう言いながら、目の前の人物は笑った。
「咲亜!」
真理は慌てて上半身を起こす。
「落ち着け。そのまま聞いてろ」
言いながら、咲亜は真理に歩み寄る。
「いいか、真理。お前はまだ自分の本当の力に気がついてない」
「……?」
真理は眉にシワをよせる。
「よく考えてみろ。普通の人間が、本当にたったの3日で怪異に太刀打ちできるようになると思うか?」
「……何?」
咲亜は真理の肩に手を乗せる。
「それまでただのいじめられっ子だった女子高生が、たった3日間、死ぬ気で修行したら怪異と互角に戦えるようになるのか?」
「……3日後には眼球すらまともに動かせなかった」
「……そうだな」
咲亜は、ゆっくりと自分の胸に真理を抱き寄せる。
「いいか、真理は特別だ。私はといえば、多分世界で一番強いだけの、ただの人間。だが、真理は違う」
真理はポカンとその話を聞いていた。
「よく考えろ。自分が戦う理由。自分の戦い方。自分が思うままに、開放しろ」
言いながら、咲亜はひょいと真理を持ち上げ立ち上がらせる。
「さて、そろそろ時間だ。行ってこい、真理」
そう言って咲亜は真理の背中を軽く叩いた。
「さ、咲亜」
「3度目は無い。自分で戦うんだ、真理」
そう言って、咲亜は再び消えていった。
鉄の鼓動が鳴った。
目を開ける真理。下半身の口を大きく開いたてけてけが目前に迫る。
「あああああ!!!」
真理は素早く上半身を起こし、両手で上顎と下顎を掴んだ。
「んんんあああああああ!!」
大きく顎を開けるてけてけ。真理はさらに力を込め、ついにてけてけの顎を引き裂いた。
「ギャアアアアアア!!!」
叫ぶてけてけ。真理は引き裂いた顎に思い切り手を突っ込む。体内のあらゆる器官を貫通し、真理はてけてけの心臓を握った。
「オラァッ!!」
心臓を引き抜き、ドロップキックでてけてけを突き飛ばした。
「グエッ……グギギギ…………」
しばらくのたうち回った後、てけてけは動かなくなった。
「……咲亜」
「ピピ」
真理は心臓を地面に投げ捨て、その場を去っていった。
──菜米町てけてけ事件──
○近藤あかり(26)
かまいたちの4級ハンター。てけてけとの戦闘の末、上半身を食い千切られ死亡。
○宮本俊介(22)
ゴーレムの3級ハンター。てけてけの執拗な打撃により死亡。
他47名 死亡。
クラスレジェンドの処理にあたり見直されたマニュアルに従い二人のハンターを送るも、どちらも殺害された。これにより、歯止めが効かなくなった怪異の攻撃を受け複数の一般人が命を落としてしまった。
その後、警報を聞き駆けつけた4級ハンター、倉田真理により処理された。
3級ハンター含む2名のハンターを容易く殺害する能力があった本怪異に1名で対応し、軽傷で処理を完了させた処理能力に留意し、本ハンターの処理能力の再協議を行うことが望ましい。
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