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第二十話 SCP-682
アイテム番号:SCP-682
オブジェクトクラス:Keter
特別収容プロトコル:SCP-682はできるだけ早く破壊しなければなりません。────
『怪異警報。飯木乃にて怪異発生。クラスコンセプト。怪異発生地域の方々は、生きている限り全速力で怪異から逃げて下さい。繰り返します──』
「応援部隊、急げ!!」
「既に周辺住民は避難完了してます!」
慌ただしく動く怪異ハンター協会司令本部。
「せ、先生!一体何が?」
真理はその場の張り詰めるような緊張感に戸惑いを隠せない。
「真理か。とんでもないのが現れたらしい」
到着したばかりの朝比奈も、さすがにこの異常事態に、額から汗を流す。
「とんでもないの……?」
「今はまだ我々の防壁によって食い止められているが、いつ壊されてもおかしくない」
「そんな……!?」
「ほぼ全てのハンターが手も足も出ない状況だ。私達も応援に行くぞ!」
「は、はい!!」
「飯塚!!」
「わかってるッ!!」
現場では、既に現地に入ったハンター達が、爬虫類型の怪異と応戦。大蛇のハンター、飯塚は、右手を大蛇の姿に変異させ、怪異を押さえ込む。
「……ぬるい」
怪異がボソッと呟く。
「ッッ!!」
怪異は抑え込まれていた下半身を自切し、飯塚に飛びかかる。
「……あっ」
怪異の突進を正面から受けた飯塚は、怪異ごと建物に突っ込んだ。
「い、飯塚ああぁぁ!!」
飯塚のバディ、山本が叫ぶ。
「山本下がれ!飯塚はもう助からない!!」
朝比奈は山本を下がらせる。
「……正直私でも勝てるかわからんな」
朝比奈は苦笑いしながら言った。
「やる……やる!!」
真理は右腕に光を滾らせた。
「うわああああああ!!!」
真理が怪異に飛びかかる。
「……遅い」
しかし、いとも簡単にかわされ、弾かれる。
「うぐっ……」
この怪異からしたら、それこそ羽虫を払うような動きでも、当たれば致命傷になりかねない。
「な、なんてヤツだ……!」
怪異は、周囲の死体やアスファルトを摂食しながら、既に下半身を再生させていた。
怪異が雄叫びをあげる。
「……」
黙って真理と朝比奈を見つめる怪異。
「やるか、小娘」
「やったらあああああ!!!」
真理は、さらに光を滾らせた。
激しくぶつかり合う真理、朝比奈と怪異。その巨躯からは想像もつかぬほど俊敏に動き回る怪異だが、真理の素早さが僅かに上回る。しかし、真理がいくら怪異にダメージを与えても、これを悉く再生されてしまう。対する真理は、あくまで人間である。受けたダメージは徐々に蓄積する。
「ッ!!」
一瞬の隙を付かれ、噛みつかれる真理。
「あああああああああ!!!!」
「真理ーーッ!!」
朝比奈が叫ぶ。ボキボキと、骨を折られる音が響く。
「放せっ!!」
朝比奈が顎の筋肉を金棒で貫く。その一瞬の隙を逃さず、真理はなんとか脱出する。
「……ぐっ」
思わず膝をつく真理。折れた肋骨が衣服から飛び出し、血をにじませる。
「クソッ、このままじゃ真理が持たない!一時撤退する!!」
朝比奈が無線連絡をする。が、
「逃がすものか」
「!!」
一瞬で背後に現れた怪異が、朝比奈を吹き飛ばした。
「……忌まわしい」
朦朧とする意識の中、真理はゆっくりと顔をあげる。再び、怪異の巨大な口が迫る。
「しっかりするのじゃマリちゃん!!」
そう叫びながらポケ祠から飛び出した静世は、怪異の不意をついて地面から大木を生やす。
「うがっ」
大木に絡めとられた怪異。
「これでも食らえクソトカゲ野郎!!」
毒素の枝で貫かれる怪異。
「ガッ……」
しばらく苦しむようにもがいた後、動かなくなる怪異。
「い、今じゃ!マリちゃんを……!」
しかし、怪異はすぐに活動を再開。暴れながら、なんとか大木から逃げ出そうとする。
「そ、そんな……逃げるのは無理か!?だ、だったら……!」
そう言って、静世は懐から神木の欠片を取り出す。無病息災の奇跡が込められた神木の燻し香を嗅げば、どんな怪我も病気も治ると言われる。
「マリちゃん!!」
静世は燻した神木を真理のポケットに突っ込む。
「し、しず……ちゃん……」
みるみる再生する真理の体。
「し、しずちゃん!!」
すぐに完治した真理は素早く立ち上がる。
「まずいぞ真理ちゃん!あのトカゲ、もうすぐ動き出す!!妾も戦うぞ!!」
「……わかった。ありがとう、しずちゃん」
程なくして、怪異は大木を引き裂き再び活動を開始。
「小癪な……!」
真理と静世に飛びかかる怪異。
「させるかっ!!」
神木から賜りし、破魔の神剣を静世から受け取った真理は、この剣により怪異を弾き返した。
「流石じゃ、マリちゃん!」
神剣と真理の光は共鳴し、さらなる力をもたらす。
「はあああああ!!」
神剣は、怪異の心の臓を貫いた。
「ガアア!!」
のたうち回る怪異。
「や、やったか……!?」
「ダメ、すぐに再生する」
「そ、そんな……」
同じく爬虫類の怪異である静世でさえ、この化物を前に打ちひしがれる。
「……やるか、あれ」
遠くで眺めていたのは、先ほど前線から退いた山本。
「飯塚……、聞こえてるか?」
山本は、瓦礫から引きずり出した飯塚に声をかける。当然ながら返事はない。
「ここ2年間、バディとして一緒に戦ってきて……どうだった?」
「お前いつも俺に文句ばっか言ってきてさ、正直ムカつくこともあったけど、いつだってお前は正しかった」
「お前が導いてくれたから、俺は全力で戦って来られた」
「俺とお前なら何でもできる、どんな敵も怖くないって、勝手にそう思ってた」
「……はぁ、今更お前がどう思ってたかなんてわからないけど、少なくとも俺はおまえの事、最高のバディだと思ってるよ」
言いながら山本が立ち上がる。
「あの新人、あんな化物に向かってボロボロになりながらも立ち上がって、俺達はさっさと逃げて……、先輩として立つ瀬がないよな」
山本は、自身の胸に手を当てる。
「……なあ飯塚、俺はどうだった?もうすぐそっちに行くから聞かせてくれよ。なぁ?」
山本は、言いながら自分の心臓をえぐり取った。
「……あれは!?」
後ろを指差す静世。振り返ると、そこには対象の命を刈り取るとされる最強クラスの怪異、死神の姿があった。
「よう新人!待たせたな!!」
「……山本!?」
「さんをつけろ新人!!」
山本、元い死神は一気に怪異と距離を詰める。
「もらってくぜ、トカゲさんよ」
「む」
死神が鎌を振りぬいた。怪異はギリギリでこれをかわす。
「ググ……」
今までそれとなく余裕を見せていた怪異も、この死神を前に表情を強張らせる。
「ハハッ」
何度も鎌を振りぬく死神。これを、持ち前の瞬発力で全てかわす怪異。
「グッ……」
怪異の肩を大鎌がかすめる。その瞬間、怪異はガクッと崩れ落ちるように倒れた。
「これは……」
「……死ね」
刹那、死神の鎌が怪異を両断した。
「……これだけのハンターを使っても、ここまで被害が出るとはな」
朝比奈が呟いた。
「政府の戦闘ヘリはおろか、特1級ハンターでさえ全く葉が立たなかった」
怪異にトドメを刺した特1級ハンターの山本は、その後怪異の影響による負荷に体が耐えきれず、肉体ごと消滅。
「流石の妾も焦ったわ……」
静世はぐでっとベンチにもたれる。
「通常、怪異は死後消滅するが、アイツは消えずに肉体が残っている。おそらくこの後は協会が回収して検査に回されるだろう」
朝比奈は静世の肩を支えながら立ち上がらせる。
「ともかく、二人には迷惑をかけた。真理は怪我もひどい。今はじっくりと休んでくれ」
そう言って、朝比奈は自身の背中に刺さった標識を引き抜きながら立ち去った。
──西紅区未確認生物事件──
○エージェント███(年齢不詳)
腹部を強い衝撃により両断され死亡。
○████=██████曹長(年齢不詳)
頭に噛みつかれたことにより頭部を粉砕され死亡。
○徳野平吉(94)
倒壊した建築物により圧死。
○飯塚乃々花(19)
大蛇の特1級ハンター。怪異の体当たりにより全身の骨を粉砕し死亡。
○山本雄一(23)
死神の特1級ハンター。自分の命と引き換えに怪異の生命を奪い、死亡。
他8名 怪異により死亡
本事件は、突如として街に現れた未確認生命体による事件であり、他の怪異と違い本怪異の性質がより生物的であった事に留意すること。
なお、本事件の処理に当たったハンターの内、生存者は特1級ハンターの朝比奈愛衣、3級ハンターの倉田真理のみであった。
追記
現場付近の不信電波を傍受。復元したところ、下記テキストデータを入手した。これにより、死亡した人間のうち二人の身元が判明。
事案S-682-7
██-██-████:エージェント███(死亡)、████=██████曹長(死亡)により対処。
補遺-S-7
怪異ハンター協会という要注意団体により、SCP-682は終了されました。その場にいたエージェント███が、SCP-682と直接戦闘を行った人物に対するインタビューにより、SCP-682を終了させたのは山本という人物である事がわかっています。
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