第三十話 シルバーバレット

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第三十話 シルバーバレット

ある者は、その姿を「白い悪魔」と呼んだ。 ある者は、その光を「滅亡の光」と呼んだ。 輝く硝煙を纏う弾丸は、人々に恐れられ、やがて「シルバーバレット」と呼ばれるようになった。 旧宿区。駅前。 犬の銅像にて。 「もー、遅いなぁ、タクくん」 大勢の人が行き来する中、彼女は撤去された喫煙所の前で、恋人の到着を待っていた。 行き交う人々は、そんな彼女には目もくれず、通り過ぎていく。その女の異変に気付くことすら無く……。 「ごめーん、待った?」 遅れて到着した恋人は、彼女の肩を叩く。 「タクくん…………」 「……!?」 振り返った彼女は、体の殆どを失った状態で、それでもなお喋りかける。 「ねえタクくん、私の体、どうなっちゃってるの?」 『怪異警報。旧宿区にて怪異発生。クラススペクター。周辺住民の方々は白髪の女の怪異に注意し、直ちに避難して下さい。繰り返します──』 「今回の怪異は人型なのか?」 咲亜は飲み干した空き缶をその辺に捨てながらジルに問う。 「そうらしい。ヤツは『シルバーバレット』と呼ばれる怪異で、文字通り銀の弾丸の変異種だ。高校生活に馴染めずいじめられ、相手が誰かもわからない子を妊娠。絶望した後、17歳という若さで自ら命を経ったらしい」 「……ふうん、胸糞悪い話だな」 「それほどの恨みを持った怪異だ、気を付けろ」 「わかってる。行くぞ……!」 咲亜はビルボードの上から飛び降りた。 いつもは人でごった返すこの交差点も、怪異警報が発生した今は人っ子一人いない。 「……あいつが怪異か。やけにおとなしいな」 咲亜は警戒して構える。 「実力は底しれずだ。気を抜くな」 怪異は、その白髪をなびかせるように振り返る。 「    (サ   クァ  ?)」 怪異は咲亜を見ると、不気味に首をカタカタと揺らす。 「何だあいつ、襲ってこないのか……?」 「…………わからん」 「             (ああ、そうか)」 少しずつ、ゆっくりと咲亜に近付いて行く怪異。 「……どうやらやる気満々みたいだな」 「          (帰ってこ   ラ  た   ダ)」 「どうする?やるのか?」 「    (よかった)」 徐々に怪異から光が溢れ出す。 「……なんかヤバそうだな」 咲亜の額から冷や汗が流れる。 「                  (あとは私がシ   ォ  全て元通りになるから)」 少し後ずさるジル。 「チッ、先手必勝!!」 咲亜が仕掛ける。放たれた拳は、その速さにより瞬間的に周囲を真空にさせる程の気圧差を生む。結果、周囲は爆発のような閃光を産み、周囲の建物を壊滅させるほどの衝撃を発生させた。 「うおぉ……っ!?」 その衝撃に思わずうずくまるジル。 「……やったか?」 ジルがゆっくりと顔を上げる。 「……なっ!?」 ジルが見た光景は、それを片手で受け止める怪異と、その様子に顔をしかめる咲亜だった。 「        (私を殺して、咲亜)」 「……なんなんだよ、こいつ」 咲亜と怪異の、最初で最後の死闘の幕開けだった。 ──旧宿駅前シルバーバレット事件── ○井上奈津美(いのうえなつみ)(19) 本事件の最初の被害者。本怪異の光を受け体の主要な器官の75%を喪失。即死したにもかかわらず、意識があった。 ○本田俊也(ほんだとしや)(28) 交番勤務の巡査。怪異と応戦した末殉職。直接の死因は窒息ではなく、攻撃を胸に受けたことによる失血死。 ○宮本光梨(みやもときらり)(7) 本事件最後の被害者。興奮した怪異の攻撃の衝撃波による瓦礫に押しつぶされ死亡。怪異による影響は見られなかった。 他34名、怪異により死亡。 死亡したと被害者達の中の多くは怪異の影響を受け体組織の一部もしくは全体が喪失していた。変異タイプの怪異の場合、こうした特殊能力を持つことがある為、可及的速やかにハンターによる処理を行う事が望ましい。 また、本事件はクラス「スペクター」が起こした事件において過去最高の死者数となったことも留意されたい。
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