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その年、天の花嫁に選ばれたエラは有頂天だった。
「ねぇお父さん、街でピンクのリボンを買ってきて! 天の花嫁にふさわしい格好をしなくちゃ恥ずかしいわ」
「分かったよ。祭りの買い出しのときに買ってきてやろう」
父親のハンスは天の花嫁に選ばれた娘を誇らしげに見つめて微笑んだ。
***
馬車で街にでかけたハンスが戻ってきたのは、祭り前日の昼過ぎだった。
「随分と遅かったな、ハンス! 何かあったのかと心配したぞ」
村人たちが集まってきて馬車を取り囲んだ。
「どうもこうも、最近西の森にゃ狼が出るって街じゃ騒動になっててよ。森を避けてブロッケン山を越えてきたら遅くなっちまった!」
ハンスの無事を喜びながらも大人たちは荷台からせわしなく荷物を降ろし、祭りに向けて動き出した。
「お父さん!」
エラがハンスに駆け寄った。
「お父さん、ピンクのリボンは?」
ハンスは思い出したように鞄をまさぐると、眉をしかめた。
「おや、確かにここに入れたはずなんだが。足場の悪い山道を急いでかけてきたから、どこかに落としてきちまったみたいだ。エラ、すまないが堪えておくれ。あと半日で祭りの準備を済ませないといけないんだ」
そう言って、ハンスはエラをなだめると荷降ろしに向かってしまった。
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