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赦して
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。何も見えない、何ももう、感じない。
かろうじて耳だけは残っているのかそれとも幻聴か、時折葉月の声が聞こえる。
『ハルくん、聞こえてる?』『大好きだよ』『ハルくん』
繰り返されるその言葉に、俺は何度も懇願した。
『もう赦してくれ』『もう止めてくれ』と。
しかしそれは叶えられることなく、ただ虚しく俺の口から出て行っては消えていく。
『許さない』と葉月は言いながら、俺の体を少しずつ削り取り、自分のものにしていった。最初はその光景も目にして、痛みと恐怖で気が狂いそうだった。だけどそのうちに痛みすらも感じなくなり、そしてとうとう光も奪われた。それでも俺は残された喉を振り絞り、何度も『赦してくれ』と言った。震える声で『赦してくれ』と『止めてくれ』を繰り返した。だけど葉月はそのどれもを聞いてはくれなかった。
『駄目だよ、ハルくん。ハルくんが悪いんだから。わたしだけって言ってくれたのに、別れるなんて言うから。わたしから離れるなんて許さないよ』
もう駄目なのか。俺はもう死ぬのか。
いやだ、死にたくない……。死に……たく、ない……なぁ……。
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