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許してあげる
「赦してくれ」
俺のその頼みに葉月は応えなかった。ただ一度だけ、最後に葉月は応えた。
「許して……。もう、死なせてくれ」
とうとう俺がそう言ったときだった。それまではどれだけ痛くても苦しくても、死にたくないと叫んでいた。生に希望があったわけじゃない。ただ本能のように、死にたくないと信じていた。
だけどほとんど無意識に死なせてと言ったとき、それが俺の本心だと分かった。生も死もどうだっていい。ただ、葉月から解放されるのならそれで良かった。
すでにもう耳も葉月のものになっていて、何も聞こえないはずなのに、そのときは確かに葉月の声が聞こえてきた。
『いいよ。だって全部わたしのものにするんだから、このままじゃできないもんね。だから許してあげる。もう、死んでいいよ』
あぁ、良かった。これで終わる。これで、死ねるんだ。
確かな喜びとともにそう思った次の瞬間、それまでとは違う大きな衝撃が降ってきて、俺の意識は急激に薄れていった。『これが死か』、そう考える間もなく、俺は暗闇に落ちていった。
ただ最後にもう一度、葉月の声を聞いた。葉月はやっぱりくすくすと笑っていた。
『ハルくん。これで最後。これで全部、わたしのものだね』
「いただきます」
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