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目覚めた先に
「……あ、目が覚めた?」
薄暗い中で葉月の声がした。ぼんやりとした視界に、こっちを見下ろす葉月の顔があった。
目が覚めた……って、俺、寝てたのか? いつの間に……。
頭が重い。ずくずくと深いところで締め付けるような痛みもある。
「葉月……。俺、どうし」
言いながら体を起こそうとした。しかしそれより先に、手元で何かに引っ張られるような感覚がして、動けなかった。手だけじゃない、足元にも同じ感覚がある。不審に思って首を動かして見上げると、両肩の横に伸びる腕の先に、ベッドにくくりつけられた俺の手首が見えた。何重にも紐のようなものが巻きつけられている。ぐるぐると巻かれたそれは、刃物で切りでもしない限り解けないだろうと思わせるものだった。そこに逃さないという執念のようなものを感じて背中にひやりとした汗が流れていった。
「な、何だよ、これ。葉月、お前っ」
「ごめんね、ハルくん。でもね、ハルくんが悪いんだよ? だって約束したのに。ずっと一緒だよって言ってくれたのに、わたしと別れるなんて言うから。ハルくんはずっと、わたしのものなのに」
「なに、言って」
「駄目だよ、ハルくん。別れるなんて、そんなの許さないから」
鋭い目つきで俺を見てくる葉月。いつもおどおどと俯いている葉月のこんな顔を見るのは初めてだった。底の知れない感情に、恐怖で喉がカラカラに乾いていく。
「葉月、何……する、つもりだ」
聞くのも怖いと緊張しつつ聞く俺に、葉月は表情を変え、にっこりと笑って答えた。
「やだなぁ、ハルくん。そんなに怖い顔しないでよ。わたしはただ、ハルくんに、わたしだけのものになってほしいだけなの」
くすくすと笑う葉月の笑顔に、背筋が凍るような恐怖を感じた。
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