曰く付き、その1。お姫様のお人形

2/51
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
「銀次の父親が貴族の娘との結婚から逃げ、想い人の町娘と結婚したからな。贅沢な暮らしを捨てたんだよ。まあ、好きな人と添い遂げれるほど幸せなことはないわな」 「嫁の八ちゃんはこの辺りで一番の美人さんだったからねえ」 「旦那の翡翠もなかなかの良い男だったじゃないか」 口々に父さんと母さんの話で盛り上がる近所連中。本人たちがいないから余計に盛り上がれるのだろう。…ここにその息子がいるんだけど。 「それで、この子のご両親はどこに?こんな寺子屋にまだ通っていそうな子が商売を始めなきゃいけないくらい暮らしに困っているのかい?」 どこに旅人はきょろきょろと辺りを見渡す。そんなに首を動かしたって絶対いないぞ、だって父ちゃんと母ちゃんは、 「十日ほど前に遠野に向かったんだよ。どうやら封印されていた土蜘蛛が目覚め暴れているとのことだ」 「土蜘蛛?!」 旅人はひいっと声を上げ、隣の頑丈な大工のおっちゃんにしがみついた。土蜘蛛はかなり大きな存在で陰陽師仲間たちが力を合わせないと封印できないくらい凶暴な存在だ。何が原因で封印が解けたかは分からないが目覚めたばかりの土蜘蛛は空腹がひどく気性も激しい。人間を食べることはないがそれでも村に降りてこられてはひとたまりもない。一刻も早く封印しなきゃいけないと馬を飛ばし向かったんだ。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!