夏の終わりにピュアな恋を

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「どうもありがとう」 「いいえ、これくらい何てことないです。それより蝉苦手なんですか?」 「蝉っていうより、虫はどれも苦手なの」 「そうなんですか。まあ、僕は珍しいもの見れてよかったですけど」 「珍しいもの?さっきの蝉が珍しかったの?」 「いいえ、蝉じゃなくて……いつも綺麗で非の打ち所がないなと思っていた常連のお客様が、蝉に怯えてへっぴり腰になっているところ、かな」 「なっ……!」 茜は思わず頬を染める。 そんなにも滑稽な姿を晒してしまったのだろうか。だとしたらなおさら恥ずかしい。 自分の失態を悔いるが、虫が嫌いなのだから仕方がない。 「虫は嫌いなのよ……」 大人げなくぷいっと澄ましてみれば、店員の彼はクスクスと笑う。 「とても可愛かったですよ」 「…………」 「ああ、そうそう、虫といっても蝉は昆虫の部類でして――、聞いてます?」 「聞いてません。それより暑いから中に入るわ」 「それは失礼しました。いらっしゃいませ、いつもありがとうございます」 彼に先導されてようやくカフェに入る。 ツンとした態度になってしまうのは恥ずかしい姿を晒してしまったからなのか、はたまた『可愛い』と言われたからなのか。 よくわからない感情に茜はいささか戸惑った。 お互いカフェの常連客と店員というただの顔見知りの間柄だったのだが、よくも悪くもこの日を境に少しずつ言葉を交わすようになったのだった。
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