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アイハラはウイルス研究室に勤める研究者だ。
小さい頃から勉強の出来たアイハラは、しかし運動音痴な上にコミュニケーションが苦手だったおかげで、当時クラスメートだったスポーツマンのタナベとその取り巻きにずっとイジメられていた。
胃腸が弱く、よくお腹を壊していたアイハラの小学校時代のあだ名は「アイハラ菌」だ。
アイハラ菌を駆除すると称した殴る蹴るの暴行はほぼ毎日だった。
それ以外にも、教科書をゴミ箱に捨てられる、給食に虫を入れられるなどのハードなイジメは卒業まで続き、中でも椅子に接着剤を塗られていた時には大変なことになったものだが、同窓会で15年ぶりに会ったタナベはそれらを何一つ覚えていなかった。
「え?そんなことあったっけ?悪ぃな。」
「……覚えてないの?」
「全然。てかもう昔のことだろ?そんなのもう許してくれよ。」
まるで、イジメのことをずっと根に持っているアイハラのほうに問題があるかのように、うんざりした表情でタナベは手をひらひらと振った。
「……。」
アイハラは、私立中学に進学して以来会っていなかったこの図々しい陽キャをずっと許せないでいた。
でももう自分も大人だ。小学校時代の悪い記憶をいつまでも引きずるのは互いにとって良くない。
だから、この同窓会でタナベを許そう────
そう考えて、彼は気乗りしない同窓会に敢えて参加していたのだ。
イジメの加害者に罪の意識は希薄だ。
何処かの本で読んだその言葉がアイハラの脳裏に蘇る。
アイハラは、タナベを許すことを止めた。
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