夏鳴る夜に会いましょう

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 鈴夏(りんか)は十六歳にして、最近悟ったことがある。  人は孤独だ。  今年の春に、鈴夏は女子高生になった。  それとほぼ同時に、近所の飲食店でアルバイトを始めた。  鈴夏の家は母子家庭だ。母はほとんど家にいない。いつも仕事に行っているか、そうでない時は彼氏とどこかに行っている。  時々母は、鈴夏の昼食代や夕食代を置いていくのを忘れて出かけてしまう。  腹が減るのは辛いし、食べ物だけでなく服や小物も買いたいと思うと、バイトするしかなかった。  学校の友達は上辺だけで中身のない会話しかしない。バイト仲間は学校を辞めてタバコを吸えと勧めてくるけれど、鈴夏の事情を探ったりはしない。  重くてめんどくさい鈴夏の心の中なんて誰も知りたくないのだ。  人は生まれた瞬間から一人だし、きっと死ぬまで一人なのだろう。  夏休みの八月。    バイト先の主任が、五日間のお盆休みを取るという。  その間嫌われ者の店長が店を仕切るというので、バイト仲間は皆愚痴っていた。  休憩時間にふと、お盆って何だろうと思い、スマホで検索した。  お盆の間は亡くなった人があの世から帰ってくるといわれており、生きている人は仏壇にお供物をしたり墓参りに行ったりする。  地獄では鬼が休暇を取るともいわれ、江戸時代には奉公人(ほうこうにん)などもお盆の時には休みをもらうことができた。  奉公人とは、現代的に言うと奴隷みたいなものだろうか。  なるほど、それで働き詰めの主任もお盆には休暇を取れるというわけだ。  何となく納得して、スマホの画面を切り替えた。
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