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「じゃあ、はじめ」
一夜はそう言うと、先程よりもフォークで大きくケーキを割り、
口に入れて行く。
それは吸い込まれるようで。
私も慌てて、ケーキを口に運ぶけど。
スポンジやクリームはふわりとしているが、
フルーツがなかなかボリュームがある。
苦戦していると、私よりも先に、一夜はペロリと自分の分のケーキを平らげてしまった。
「真湖ちゃん、ごめんね。
俺は勝てる勝負しかしないんだよね」
「それって…」
ずるい、と思うけど。
ずるくは、ないのか。
一夜が食べるのが早い事を、私が読み違えただけ。
「もし、俺が負けてたら、
俺にどんな言う事を聞かそうと思っていた?」
そう訊かれて、もしかしたら、と期待するように、それを言葉にした。
「1ヶ月前から、私のお父さんが行方不明で。
急に、家に帰って来なくなって。
お父さんの仕事場の人達に聞いても、誰もお父さんの行方を知らなくて」
「で?俺に何しろと?」
「一夜なら、うちのお父さんの事見付けられるんじゃないかって」
そう言うと、こちらは真剣なのに。
一夜は吹き出すように笑う。
「家出した真湖ちゃんの父親を、
うちの組総出で探すの?」
さらに、笑い出す。
「お父さんは家出なんかじゃない!
きっと何かの事件に巻き込まれたの!!」
「なら、俺じゃなく、警察に言えば?
って、もう言ってるか」
一夜の言うように、捜索願いも出している。
だけど、この1ヶ月、父親は見付からない。
生死さえも、分からない。
以前から父親は仕事が忙しいのもあり、
一週間くらい自宅に帰って来ないのはザラだけども。
流石に1ヶ月は…。
それに、今回は職場にも1ヶ月以上父親は姿を見せていない。
「まあ、勝負に勝ったのは俺だから。
どうする?
彼氏と別れる?それとも、俺と熱い夜を過ごす?」
「…昌也と別れるのは、ない」
「そう」
「私が先にシャワー浴びていい?」
「どうぞどうぞ」
そう、クスクスと笑っている。
私は一夜から目を逸らし、バスルームの方へと歩いて行く。
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