2人の誕生日

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「真湖ちゃん…」 そう私の名を呼び、唇を触れるように重ねて来る。 温かくて、柔らかい唇。 そっとその唇が離れて、二つの目が私を見下ろしている。 「…ここまではさっきもしたけど、ここから先もいいの?」 「いいよ…」 声が震える。 「…じゃあ、ここまでにしとこうかな」 その言葉に、え?と、目をパチパチさせると、一夜は笑っている。 「嫌がっている女とヤる趣味は、俺にはないから」 「いや、べつに私は嫌がってはない」 嫌がってはないけど。 「我慢してる、って感じだよね? そんな顔されてたら、けっこう萎えるし」 そう言われ、確かにそうだな、とは思う。 やはり、好きでもない人と、したいとは私は思えない。 そんな私達の耳に、電話の鳴る音が聞こえる。 それは、テーブルに置いてある、一夜のスマホから。 「もう、バレたのかな?」 「バレる?」 「うん。俺、今夜はお忍びで夜遊びしてたから。 自宅のマンションから、若い奴らの目を盗んでこっそりと抜け出して来て」 そういえば、この人は変装していると言っていたのを思い出した。 それは、普段のイメージを少し変えて伊達眼鏡するだけの、簡単なものだけど。 一夜はベッドから降りると、 テーブルの上のスマホを手に取り、その電話に出た。 「…はい。 うん…。 ん、ごめんごめん。 今度はバレないように抜け出す…って、冗談冗談。 ごめん」 謝っているけど、その声は反省せず笑っている。 居なくなったこの人を心配でもしている組の人からの電話なのだろう。 「あ、それで俺が居ないの知られたのか。 んー、それは俺が行かないといけない感じ? 今、可愛い子とお楽しみ中だったのに」 そう言って私を見るから、その可愛い子って言葉に、妙に照れ臭くなる。 「うん。今S町のホテル。 そう、そこ。 じゃあ、10分後に永倉ジュニアに、俺の事車で拾ってって言っといて。 永倉ジュニアの店、すぐそこだろ? うん。 はーい」 そう言って、一夜は電話を切った。 電話の相手が何を話しているかは分からないが、 今から10分後に、ナガクラジュニアがこの人の事を、迎えに来るのだろう。
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