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17話
俺は一通り泣くと頭がすっきりしていた。
リアナは「夕食を用意しますね」と言って部屋を出ていく。
俺はふうと息をつく。そして天井を睨みつけた。
「……クォン。いるんだろ。出てこいよ」
「……あり?気配は消してたんだけどな」
さっとクォンが音もなく降りてきた。絨毯の上に静かに着地する。
「ふーん。やっぱり王子様はそこらの奴とは違うね」
「何が言いたい」
さらに睨みつけるとクォンは何でもないと言った。余計に気になるじゃねーか。
「クォン。お前、昼間の事だが。どういうつもりだ?」
「えっと。どういうつもりだとは?」
「……はっきりと言え。シェリア殿を叔父上に託すというのはもう決定事項だ。なのに俺を彼女に会わせた。どういうつもりだと言いたくもなる」
自然とため息が洩れる。クォンはやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
「だってよお。あんた、正式に認められた婚約者なのに。叔父にあたるっていう人に託すってのはさすがにな。婚約者のシェリアちゃんが可哀相じゃねーか」
「俺は。仕方ない、お前は詳しい事はわからないんだったな。これから訳を話す。その代わり、他言無用だぞ」
「……わかった。話してみろよ」
クォンが頷いてみせたので俺は順を追って前世の事を交えて説明をしたのだった。
「ふーん。つまり、この世界自体がげーむという物の中とそっくりで。シェリアちゃんは後に現れるであろう主人公の敵として立ち塞がると。そうしてあんたかシェリアちゃんの兄貴のるーとに入ると処刑の最期が待っている。王子様はそれを阻止したいので叔父貴に婚約者を託したいと約束したってわけか」
クォンがふーむと唸りながら言った。俺は喉が渇いたのでリアナが淹れた紅茶を飲みながら頷いた。
「そうだ。クォン、お前は凄腕の暗殺者。別に暗殺は頼まんが。ちょっとシェリアちゃんの護衛を頼みたい。俺はいいから」
「何で??」
「お前だったら影から守ることも可能だろう。シェリアちゃんは女の子だしまだ4歳。俺と違って狙われやすい。王太子の婚約者となったら尚更だ」
真面目に言うとクォンはにやにやと笑う。
「クォン。その笑い方はやめろ。気持ち悪い」
「なっ。ひっでーな。でもまあ、あんたの依頼は受けるよ」
「……クォン。それで報酬だが」
「うーん。報酬はいいよ。俺、このフォルド国の騎士さんージュリアスさんに命を助けられたからな。恩返しって事で。まあ、女の子の護衛は言われなくてもやるよ」
「途中までは良かったが。女の子の護衛を言われなくてもやるってのは……」
うっさいとクォンは言った。俺はくすりと笑う。
「クォン。じゃあ、交渉成立だな。頼むぞ」
「ああ。これからはシェリアちゃんの邸にも行く事にする」
クォンはそう言うとまた音もなく天井に戻っていく。見送りながらさてと頭を切り替えた。
その後、リアナが食事を持って部屋に戻ってきた。俺はいつも通り自室で食べた。
「殿下。今日は早めに寝ましょうね」
「ああ。そうするよ。今日も色々あって疲れた」
「そうですね。あ、デザートに料理長お手製のケーキがありますよ。後でミルクティーも淹れますね」
リアナがそう言って給仕をする。夕食は白パンと野菜のスープ、鶏肉のトマトソース煮込みだ。一通り食べると眠くなってくる。
「……殿下。お湯の用意をしてきますね」
「頼む」
頷くとリアナは夕食が乗ったワゴンを押して廊下に行き、他の侍女に片付けを頼みに行く。
戻ってくると浴室に行った。俺はこくりこくりと眠くて船を漕いでしまう。
うつらうつらとしていたが。リアナに揺さぶられて起こされた。
そうして俺は入浴をすませる。夜着に着替えて寝室に自力で向かう。
ベットによじ登り布団に入る。今はもう初夏に近い。が、夜はまだ冷え込む。
俺はシェリアちゃんを間接的に守る事を決めた。そしていつか手紙を書こうと思った。
彼女にだけは打ち明けよう。まあ、シェリアちゃんにとっては余計なお世話かもしれないが。
リアナは婚約を解消しなくていいと言ってくれたが。そういうわけにもいかないだろう。
いずれ、アリシアーナが現れたら俺はシェリアちゃんへの気持ちも忘れてしまうかもしれないからだ。
傷つけてしまう前に想いを伝えたかった。フラれるのは想定内だが。
また、クォンが聞いたら呆れるだろうな。お前はそれでも男かと言われそうだ。
けど、もう決めた事。ラウルとの約束もある。シェリアちゃん、俺は元気だ。
君はどうだろうか。そう普通に聞いてみたい。ゲームの攻略対象でなかったら言えただろうか。
シェリアちゃんにはいくら謝っても足りないだろうな。けど君のことは守るから。安心して眠ってくれ。
そう意中の彼女に呼びかけながら目を閉じた。深い眠りについたのだった。
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