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18話
俺はシェリアちゃんにキスをされてからというものわざと会わないようにした。
辛くはあるが。我慢だ、俺。シェリアちゃんがうるうると涙を流しそうな顔で「エリック様。わたくしの事が嫌いなのですか?」と言われた事がある。
もう、俺は「大丈夫だよ」と言って抱きしめて頭を撫でくり撫でくりしたくなった。まあ、ジュリアスとエルに止められたがな。
端から見たら俺ってただのおませで女の子に冷たい奴だと思われているだろう。
けどいいんだ。クォンやジュリアス達はわかっているし。後はお袋だな。
お袋こと王妃は親父の補佐や子育てを一生懸命やっているようだ。多忙なので最近は会えていない。
王妃は名をエリザベスといい、親父はアルフレッドという。ちなみに俺と同腹の弟がエレインだ。
親父は24歳でお袋は21歳でまだ若い。エレインは3歳であった。付け足しておくとジュリアスは25歳でエルが27歳だ。クォンも15歳だと本人が言っていた。
て、年齢をはっきりと言うとお袋の場合はやばいな。えっとシェリアちゃんは4歳だったはず。(……リアナは2人の子持ちで4ピー歳らしい)
まあ、女性の場合は年齢不詳の方がいいだろう。アホな事はいいとして。
俺はまた攻略対象の情報やらを書き付けておいた日記を見ていた。
ふーむと唸る。俺って何で攻略対象なんだろう。運が悪いよな。
そんなどうでもいい事を考えながら俺は日記を閉じたのだった。
「……殿下。昼食の時間ですよ」
リアナが呼びに来た。俺は椅子から降りて応接間に向かう。
ドアを開けてソファに行くと昼食は用意されていて美味しそうだ。
「今日は殿下の好きな鶏肉のトマトソース煮込みがありますよ」
「へえ。そりゃうまそうだ」
言うとリアナはくすりと笑った。
「殿下。他にもひよこ豆のスープもあります。デザートはフォンダンショコラです」
どれも俺の好きなものばかりだ。けど一体どうしたのだろう。
「……リアナ。今日は俺の好きなものばかりで固めたんだな。けど何もなかったはずだぞ」
「それはそうなんですが。殿下におかれましては最近、憂鬱そうになさっている事が多いですから。元気を出していただきたいと料理長が言っていました」
「え。俺ってそんなにため息をついていたか?」
「ええ。何かあるごとにため息をついていましたよ。それにシェリア様の事もありますでしょう。ちょっと、好きな物でも召し上がって英気を養っていただきたいとわたしも思いまして」
「……そっか。ありがとよ」
俺は照れながらも礼を言った。何だ、俺が悲愴感漂わせてたからリアナや周りの人々は心配していたらしい。
まあ、そりゃそうなるわな。けど、正直シェリアちゃんは心配だ。
その後、俺は鶏肉のトマトソース煮込みやひよこ豆のスープを皿一杯分は食べた。白パンもスープに浸したらこれもうまい。さすが、王宮の料理長の腕は一級品だな。
デザートのフォンダンショコラも生地がしっとりしていて甘さは控えめだ。最高にうまい。俺、王子はやめたくないかも。こんな事をラウルに言ったら睨まれそうだが。
全部、ぺろりと平らげた俺にリアナは満足そうだな。まあ、久しぶりにリラックスして食事をできたように思う。けっこう、緊張した日々を送ってたのな。
まあ、前世では多忙な毎日を過ごしていたしな。これくらいは序の口と矢恵さんも言うだろう。
俺は午後からウィリアムス師の稽古があるのを思い出した。リアナも知らせてきたので動きやすい服装に着替える。そうしてから訓練場に行く。
エルとジュリアス達も一緒だ。その内の一人であるオリバーが困ったように言った。
「殿下。今日もあのべらぼうに強い坊ちゃんと稽古をするんですか?」
「そうだが?」
「……殿下。まだ、4歳でおられるんですから同い年のお子さんを相手になさった方がいいかと思うんですがね。その方が俺たちも安心できますし」
オリバーは殿下も無茶をなさるからいつもヒヤヒヤものなんですよとため息混じりに言う。
「オリバー。心配してくれるのは有り難いが。俺はラウルを超えたいと思ってる。ウィリアムス先生もいるから大丈夫だよ」
「……はあ。ラウル様を超えたいですか。まあ、それはわからなくもないですね。目標があるのはいい事だと思いますよ」
「だろう。だから、一緒に稽古をつけてもらってるんだ」
そう言うとオリバーは面白そうに笑った。
「……そうですか。では俺たちも何も言いません。ただ、怪我はなるべくしないように気をつけてください」
「わかった」
俺は頷いて訓練場にいたウィリアムス師に手を上げて声をかける。
「先生。今日も来ました」
「殿下。こんにちは。では剣を取ってきますので待っていてください」
ウィリアムス師はそう言って場を後にする。ラウルが見当たらない事に少しして気がついた。
どうしたのだろう。首を捻っていたらウィリアムス師が戻ってきたのだった。
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