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19話
俺はウィリアムス師が戻ってきた後でラウルがいない事を告げた。
「……ラウル様がいないと。確か母君と一緒にイルミナ伯領に戻られたと聞きましたが」
「えっ。本当か。いつ帰ったか聞いていいですか?」
「昨日の夕方だったそうです」
俺はぽかんとなってしまう。ラウルがイルミナ伯領に帰っちまった。
嘘だろ。ラウルがいなかったら剣術を磨いてきた甲斐がなくなるじゃないか。
ウィリアムス師は心配そうに見つめる。
「殿下。ラウル様はおられませんが。その代わり、今日は息子のオズワルドを連れてきています。オズワルドを相手になさると良いかと思いましてな」
俺はそうかと頷いた。
「……オズ。来なさい」
オズと呼ばれた黒髪の少年がこちらに歩いてきた。薄い紫の瞳が印象に残る。
ウィリアムス師はオズワルドを自分の側まで来ると俺に紹介をした。
「エリック殿下。こちらが私の息子で次男のオズワルドです。今年で4歳になります。オズ、殿下にご挨拶を」
「……あの。初めてお目にかかります。オズワルド・シュテルンと言います」
オズワルドはそう言うと胸に手を当てて跪いた。
「ああ。こちらこそ。俺は先生も言ってたが。エリック・フォルドだ」
「エリック殿下。今日は父から稽古のお相手をと言われました。よろしくお願いします」
4歳ながらにしっかりとした少年である。俺に対しても真面目に接してくるな。
さすがにウィリアムス師の息子だ。そう感心しながら俺は師から刃を潰した剣を受け取る。オズワルドも受け取ると無言で剣を持って向き合う。
剣を突きつけ合うとオズワルドは真っ直ぐにこちらを見てきた。俺も見つめる。
しばらく、ジリジリと睨み合いをしながら互いの隙を探った。俺はラウルと稽古をしていた時を思い出す。
オズワルドは同い年だがラウルと違った意味でなかなかに手強そうだ。ラウルは見かけと中身にかなりのギャップがあった。年齢も相まって隙がなかった。
オズワルドも父や兄に鍛えられているためか4歳ながらに隙がない。剣を持って俺も攻撃を仕掛けるタイミングを計るが。けっこう、難しくて唸ってしまいそうになる。
初対面の相手ではあるので余計だ。そう思っていたらオズワルドが剣を突き出してくる。咄嗟に避ける。ビュンと剣が唸りを上げた。
「………!!」
俺は逸らした上半身を戻すと剣を片手で持ち、反撃でオズワルドに斬りつけた。が、奴はそれを剣でいなす。ガキィンと金属がぶち当たる音が響いた。
「……そこまで!!」
ウィリアムス師が大声で稽古を終わらせた。俺は剣を持ち直すとはあと大きく息を吐き出していた。オズワルドも息を弾ませて剣を下ろした。
「二人とも本気を出してどうする。殿下。ラウル様の時と同じようにやらなくていいですよ。オズワルドは同い年でまだ4歳ですから」
「……すみません」
俺が謝るとオズワルドは意外そうに紫の瞳を見開いた。
「エリック殿下。僕もすみませんでした。つい、父上と稽古をしている時みたいにしてしまって」
「いや。構わん。俺も叔父上と稽古をしている時みたいに本気になってしまった。君とは初対面なのに」
「……そうですか。僕の腕前、殿下には及びません。けどこれからも相手をさせていただけますか?」
オズワルドが尋ねてきた。俺は手を差し出して頷いた。
「ああ。相手をこちらからも頼みたい。同い年の奴とは稽古をした事がないから。明日もまた来てくれ」
「わかりました。僕、頑張ります!」
オズワルドはそう言って俺の手をぐっと握る。意外と剣だこがある固い手だ。
俺に同い年の稽古相手ができたのだった。
それからというものの、オズワルドは毎日王宮に来ては俺の稽古相手をする事になる。オズワルドと稽古をするとウィリアムス師もラウルの時以上に怪我を俺がしないか気を使うようになった。
また、オズワルドの他に魔術師団長の息子であるカーティス、宰相子息のウィリーも俺の側近候補として来るようになる。残る攻略対象のラウルとトーマス兄貴は俺やオズワルドよりも4歳上だ。
ちなみにカーティスとウィリーも俺とオズワルドより2歳上で6歳になる。
後で年齢表を作るかと思ったのは言うまでもない。まあ、これで攻略対象が出揃った。後は主人公のアリシアーナを待つのみだ。
シェリアちゃんを守るにはラウルとトーマス兄貴を味方にする必要がある。そう、俺はシェリアちゃんの家族でもあるトーマス兄貴の事をすっかり忘れていた。
ラウルとトーマス兄貴は後に王立学園で出会い、親友になる。ラウルを攻略したい場合、トーマスルートをクリアするのが必須だ。そして全員のルートをクリアして初めてラウルのルートが開ける。
俺もけっこう苦労した記憶があった。まあ、ラウルと悪役令嬢であるシェリアちゃんが婚約したりするとストーリーに歪みができるかもしれない。
アリシアーナはある意味当て馬といえる。俺はシェリアちゃんを救えればそれでいいのだ。アリシアーナには悪いと思う。が、シェリアちゃんに手出しをしたら容赦はしないぞ。
俺はそう思いながら課題を終わらせたのだった。
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