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21話
ラウルが帰ってしまってから俺は余計に剣術の稽古や勉学に励んだ。
スズコ様とはあの後も文通を続けていた。ラウルの様子を聞いたら「最近は元気にしている」とあった。
「……殿下。ラウル様はお元気でしょうか?」
「ああ。スズコ様の手紙だと最近は元気らしいぞ。体調も良くなってきたんだろ」
「でしたらようございました。また、王宮にいらして頂けたら嬉しいのですけど」
リアナが安堵したらしくほうと息をつきながら言う。俺もそうだなと頷く。
まあ、ラウルは俺の秘密も知っているし。接しやすくはあるのだ。
俺はウェルズ先生の出した課題をやろうと椅子から降りた。まだ、俺は4歳なので身長は120センチほどしかない。早く伸びてくれと切に祈るのだが。
「殿下。課題をなさるのですね」
「ああ。ちょっと人払いもしておいてくれ」
「わかりました」
リアナは訳知り顔で頷いた。俺は課題の教科書やノート、ドリル帳などを持って寝室に行く。ドアを開けて中に入る。
「……クォン。ちょっと出てきてくれ」
「……はいよ。何かあったか?」
また、音もなくクォンが天井裏から降りてきた。俺は頭の中で伝えるべき事を整理する。
「クォン。シェリアちゃんはその後どうしている?」
「シェリアちゃんか。元気にしていたぞ。ただ、最近はラウルの坊ちゃんと文通をしているようだがな」
「……え。叔父上と文通?!」
「ああ。けっこうシェリアちゃん、嬉しそうにしていたぞ」
「俺はのけ者かよ!?」
つい、セルフツッコミをしてしまった。いつの間に?!
油断も隙もないというのはこの事だな。本当に!!
「……殿下さ。諦めるんじゃなかったのかよ」
「それはもっと先の予定だったんだ。くそ。ラウルに先を越された!!」
「何というか。あんたも大変だな」
クォンはそう言ってぽんぽんと肩を優しく叩いた。俺、ちょっと不憫すぎね?
何でよりにもよって歳が近いとはいえ、実の叔父に好きな子を盗られないといけないんだ。しかもシェリアちゃん、まんざらでもなさそうだし。
「クォン。とりあえず、シェリアちゃんの護衛を引き続き頼む。ラウルの事はまあいい」
「……殿下。無理しなくていいんだぜ。俺、あんたの味方になってやる」
「……クォン」
「あんたの親父さんには命を助けてもらったしな。まあ、恩返しって奴か。何ならシェリアちゃん以外のいい相手を探すの。手伝ってもいいぜ」
「ありがとよ。ま、シェリアちゃん以外の相手の件についてはもうちょっと後でもいい。今はあの事件を再び起こさないためにも気は抜けないしな」
わかったとクォンは頷いた。そうして彼は天井裏に戻っていったのだった。
俺は課題をやり終えるとリアナを呼んだ。もう、夕方になっていた。
「……殿下。夕食を持ってきますね」
「ああ。もうぺこぺこだ。頼む」
頷くとリアナは部屋を出て行く。俺はふうと息をついた。椅子で足をぶらぶらさせる。行儀が良くないが。こうでもしないと退屈で仕方ない。
(ラウルにはどうしたって勝てないな。シェリアちゃん、盗られたし)
ちょっと泣きたくなる。いいよな、モテるやつは。そうやさぐれていたらドアがノックされた。
「……殿下。夕食をお持ちしましたよ」
リアナの声だった。俺が返事をするとドアが開かれた。
ワゴンを押してリアナは入ってくる。夕食の良い香りがこちらにまで漂ってきた。今日は俺の好きな鶏肉のトマトソース煮込みやグラタンもあるようだ。
リアナは一つの皿に少量ずつおかず類を盛り付けて俺の前に置いた。横にはパンと果実水がある。
俺は前菜のサラダなどを食べた。あっさりとしたトマトとレタス、キュウリのサラダはシャキシャキとした食感でうまい。次に鶏肉のトマトソース煮込みやグラタンも食べた。鶏肉のトマトソース煮込みはニンジンやタマネギ、仕上げにチーズが入っていて濃厚な味だ。グラタンは鶏肉とタマネギ、マカロニというシンプルな具材だが。それでもこれもなかなかなお味だった。
さすがに王宮の料理人は違う。俺のお腹は次第に膨れた。もう、食べられないという所で食事は終わった。
「今日は完食なさいましたね」
「本当だな。ちょっと食い過ぎた」
「……でもまあ。元気な証拠ですよ」
リアナが苦笑しながら言った。俺はもう動けないとソファに寝そべる。お茶の代わりに果実水を飲んだのでお腹一杯だ。まあ、果実水のせいだけではないのだが。
リアナが他の侍女を呼んで俺を寝室にまで連れて行く。食事が終わった後、すぐに寝転がるのは良くない。それでも睡魔には勝てなかった。トロトロと眠気がやってくる。
「……殿下。せめて湯浴みはなさってください」
「ん。わかった」
眠い目をこすって浴室に向かう。リアナや他の侍女もやってきて手伝われながら入浴を済ませた。そうしてから俺は寝間着に着替えて眠りについたのだった。もう、眠い。おやすみ……。
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