22話

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22話

  俺が前世の記憶を思い出してから早くも一年以上が経とうとしていた。 リアナや他の侍女、ラウルやスズコ様、クォンに話したのもちょうど一年と少し前だったか。俺も歳をとって4歳、ラウルも8歳くらいにはなっている。スズコ様は3ピー歳になったと本人が言っていた。 「……殿下。もうお昼ですよ」 リアナが知らせてきた。俺は課題をやり終えていたのでノートと教科書を閉じる。椅子から降りて寝室を出た。 「……リアナ。今日のお昼の献立は何だ?」 「今日はオムレツとチーズ入りのスコーン、野菜サラダ、パンです。殿下も最近はよく剣術などの稽古をなさるので量も多めですよ」 「そっか。じゃあ、食べるよ」 頷きながら言うとリアナは他の侍女達にも目配せをする。すぐに俺の昼食が用意された。 オムレツやスコーンはほかほかと湯気を立てている。野菜サラダも新鮮でうまそうだ。もう、皿に少しずつ盛り付けは行わずとも食べられるようになった。 応接間のソファに座るとナイフとフォークを手に取る。オムレツや野菜サラダを食べたりパンも食べた。相変わらず、料理長は俺の好物やパターンをよく把握している。 「……うまい。あ、果実水を飲みたいんだが」 「わかりました。今、入れますね」 リアナが素早く果実水を水差しからコップに注いで机の上に置いた。それを早速口に含んだ。いつものとは違い、レモンの果実水のようだった。 酸っぱいけどこれはこれでいける。最後にチーズ入りのスコーンを食べた。 チーズの塩味とスコーンの甘みがちょうどいい。食感も外はサクサクで中はしっとりしている。全部を食べるともうお腹いっぱいだ。 その後、ウィリアムス師やジュリアスに剣術の稽古をつけてもらう。今日もウィリアムス師の息子のオズワルドが一緒である。カーティスも何故かいるが。 俺はその時に閃いた。トーマス兄貴を味方にするにはフィーラ公爵邸に一度くらいは行ってみたらどうかと。まずは直接会わない事には始まらない。 後でリアナと親父にだけは話してみよう。そう決めたのだった。 「……リアナ。ちょっと父上と話したいから伝言を頼みたい」 「まあ。お話ですか。わかりました、お知らせしてきますね」 リアナが小走りで親父の執務室に向かう。とりあえず、王宮を出る許可はもらわないといけない。知らせるのはそのためもある。少し経ってリアナが戻ってきた。 「殿下。陛下が今であれば良いとの事です」 「わかった。ジュリアス達も一緒に行かせる。リアナも付いてきてくれ」 「……わかりました」 俺はリアナとジュリアス以下騎士達を連れて親父ー国王の執務室に行く。ドアの前まで来るとジュリアスがノックする。中から返事があった。ドアの両脇に控えていた騎士の内の一人がドアを開ける。俺とリアナが中に入った。 「エリック。久しいな。今日はどうしたんだ?」 「父上。その。婚約者のフィーラ公爵令嬢のお邸を訪問したいと思いまして」 「……フィーラ公爵令嬢の邸にか。だが、お前はまだ小さいし。出かけさせるのはちょっとな」 親父は俺が外出するのはかなり心配らしい。まあ、それもそうだろうな。俺ってシェリアちゃんと一番最初に顔を合わせた時に気絶しちまったからな。 「……そうですか。でしたら俺はリアナと一緒に行きます。後、ウィリアムス先生も一緒でいいですか?」 「……騎士団長とか。まあ、良かろう。行って来なさい」 「ありがとうございます。父上」 お礼を言って俺はリアナと共に執務室を出る。親父はやれやれとため息をつく。その後、出かける前にウィリアムス師に一緒に行ってほしいと手紙を送った。フィーラ公爵邸にもお忍びで行かせてほしいと手紙を送る。こうして翌日にウィリアムス師から「構いませんよ」と返事をもらい、フィーラ公爵からも「妻と息子のトーマスには伝えておきました」と返事をもらった。 この日のお昼に俺はフィーラ公爵邸に行くために馬車に乗っていた。車内にはウィリアムス師が俺の向かい側にリアナが隣に座っている。 「……先生。今日はわざわざ俺の付き添いをしていただきありがとうございます」 「いいですよ。たまにはフィーラ公爵とお会いしたいと思っていましたから。シンディ夫人も久しぶりに会いますが。お二人とも元気かとそちらが心配で」 「そうですか。公爵ご夫妻と先生は面識があったんですね」 「ええ。もう30年も前になりますか。フィーラ公爵、ダリルと当時は呼んでいましたが。彼と元は幼なじみなんですよ。ダリルは私から言うと弟分でした。昔はよく一緒に遊んだものです」 「なるほど。それで俺と一緒に出かけるのに賛成してくださったんですね」 へえと言うとウィリアムス師は苦笑する。 「……いえ。私ごとでお恥ずかしい。でもダリルと会うのも五年ぶりですな。ご子息のトーマス君も大きくなっているでしょう」 そう言う師は懐かしそうに目を細めた。俺はフィーラ公爵ご夫妻やトーマス兄貴と意外な人が知り合いだった事に改めて驚いた。こういう事ならもっと早くに親父やウィリアムス師に話を聞いておくんだったと後悔する。そうして馬車はフィーラ公爵邸に近づくのだった。
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