24話

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24話

  俺がシェリアちゃんに頼んだ通りにトーマス兄貴と帰る間際にあいさつできた。 「……殿下。僕に会いたいと妹が申していましたが。どうかなさいましたか?」 「……いや。ちょっとトーマス殿に挨拶したいと思って。改めて俺はシェリア殿の婚約者のエリックです。よろしくお願いします」 「はあ。挨拶ですか。別に僕が王宮に行けば事足りたと思うんですけど」 「それでも。今日はせっかくこちらに来たわけですし。せめてと思ったんです」 「ふうん。そうですか。わかりました。挨拶は受け取っておきます」 トーマス兄貴はそう言うとにやりと笑った。なんか、不穏な物を感じる。 「……あの。トーマス殿??」 「……いや。あんた、うちの妹をラウルに譲るつもりだと聞いてたんだがな。俺にわざわざ挨拶してきて。どういうつもりだ?」 「どういうつもりって。シェリア殿をラウル叔父上に譲るのはもっと先の話です。とりあえず、婚約者になったわけですから。トーマス殿とも顔を合わせておきたいと思ったまでです」 「なるほど。わかった。まだ妹と別れるつもりはないんだな」 「今はありません。もし解消してしまったらシェリア殿を傷つけてしまいます。それに叔父上が黙っちゃいないし」 俺はつい口走ってしまった。が、トーマス兄貴は笑みを深めた。 「……気に入った。エリック。ラウルからはあんたの事は聞いてる。だいぶ、変わった王子様だとは思っていたが。会って話してみたら予想以上だったな」 「……え。予想以上ですか」 「ああ。ラウルは忌々しそうにしていたがな。俺は気に入った。あんた、何か頼みたいことがあるんじゃないか。ラウルがそう言っていたんだが」 「頼みたいことか。その。シェリア殿と婚約解消してラウル叔父上に譲るのを円滑に進めるには。トーマス殿の協力が必要なのは確かです。それを頼んでもいいですか?」 「シェリアと婚約解消ね。何でそれをしないといけないんだ。シェリアには問題はないしあんたにもないはずだが」 俺は来たと思った。婚約解消と言うと絶対普通は不審に思われる。仕方なく、トーマス兄貴にはラウルや母君のスズコ様達に話したように簡単に説明した。 まず、俺に前世の記憶がある事。そしてこの世界が元の世界ではゲームという物の中と酷似している事などを話した。シェリアちゃんはそのゲームでいうと悪役令嬢として出てくる事も言った。彼女はどのキャラのルートに行っても処刑か国外追放、よくて修道院行きだ。そんな破滅ルートしかない。だから、俺はそんな破滅ルートからシェリアちゃんを救いたくてあえて婚約解消に持ち込みたいーー。 そこまでを話すとトーマス兄貴はふうむと唸った。 「……それはラウルも知っているのか?」 「知っています。母君のスズコ様もご存知です」 「スズコ様も知っていたのか。そうか」 トーマス兄貴はふうと息をつく。どうしたのだろうかと思い、首を傾げた。 「殿下。ちなみにどれくらいの人間があんたの事について知っているんだ?」 「……乳母のリアナと他の俺付きの侍女と護衛の騎士。後はラウル伯父上とスズコ様など一部の人間が知っています」 「なるほど。わかった。じゃあ、俺も一応は協力する。シェリアは誰に託すつもりかも聞きたい」 「そうですね。ラウル伯父上に託そうと考えていますが」 「……ラウルにか。まあ、あいつもシェリアを気に入っているようだから。悪いようにはしないだろうな」 そう言って兄貴はううむとまた唸る。考え込んでいるようだ。 「あの堅物のラウルがうちの妹を気に入るとは思わなかったな。世の中というのは何が起こるかわからん……」 何故か親父くさい事を言っているが。兄貴って確かまだ8歳くらいだったはずだよな。そう思っていたら兄貴は俺にぐいと顔を近づけた。 「殿下。とりあえずはラウルにシェリアを託す件については協力する。時間がかかってもいいんだったら婚約を解消できるようには動くが」 「……ありがとうございます。トーマス殿が協力してくれたら心強いです」 「……シェリアも罪な奴だよな。こんなできた婚約者がいるのに。ラウルにうつつを抜かすとは」 「はあ」 「まあ仕方ないか。殿下。シェリアと婚約解消したらきちんと新しい相手を紹介くらいはしてやる。だからそれまでは妹を頼む」 俺はそれには頷いた。婚約解消するまでは俺もシェリアちゃんを守る。解消したとしても守り続ける事にしよう。そう決めた。 「……トーマス兄貴。言われなくてもシェリアちゃんは守りますよ。婚約解消してもずっと」 「そうか。シェリアもあんたが守ってくれるとなったら心強いだろうな」 「はあ。俺は武術はまだまだですが。未だにラウル伯父上に勝てませんし」 「あいつと比べない方がいいぞ。ラウルはもともと2歳くらいの頃から武術の訓練をしているからな」 「……そうだったんですか。道理でめっちゃ強いわけだ」 そうだなと兄貴は頷いた。俺は伯父上がめっちゃ強いわけがわかって驚きを隠せなかったのだった。
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