4話

1/1
前へ
/24ページ
次へ

4話

  ウェルズ先生が聞かせてくれた昔話はこうだった。 昔々にルエナという美しい娘が現在のフォルド王国の南部にある村に住んでいた。まだ、フォルド王国は建国されておらず、ルエナは流浪の民である父と農民である母との間に生まれる。 貧しい生活を余儀なくされていたルエナだが文句も言わずに暮らしていた。 そんなある日、ルエナの住む村を五人ほどの屈強な男を連れた若者が訪れる。 若者はいかにもさすらう風情だったが村長は男たちと共に彼を客人だと言って手厚くもてなす。 身寄りもなく暮らしているルエナには若者たちの事など完全によそ事だった。が、何を思ったか村長はこの村でも器量よしな娘がいると若者や男たちに喋ってしまう。 当然、若者は彼女に興味を持つ。ルエナを連れてくるように村長に言った。 村長は人をやりルエナを迎えに行かせる。そうした上でルエナにお湯を使わせて磨きあげ、上等な衣服を着せた。 村長は「あの若者はさるお方ーとある国を追われた国王のご落胤(らくいん)だ。つまり、血筋でいえば王子。決して失礼のないようにな」と言い含められる。 ルエナはそれを知るとその場を逃げ出したくなった。 が、見張りがいるためにできない。仕方なく若者ー王子の一夜の相手をしたのだった。 数日後、王子は村を発つことになる。ルエナはたった一度きりの逢瀬だったから彼は忘れているだろうと鷹をくくっていた。 ところが村をちょうど発とうとしていたルエナの家を王子が訪ねてくる。 「ルエナ。ルエナはいるか?」 王子は彼女の名を知っていた。ルエナはどうしたものかと途方に暮れる。 「……いるんだったら返事をしてくれ。わたしはもうここを出ないといけない」 その言葉を聞いてルエナはやっと家の扉を開けた。 「何かご用でしょうか?」 「やっと出てきてくれたか。君に最後に会いたかったんだ。後渡したい物があって」 ルエナは首を傾げた。王子は胸元から何かを取り出す。 彼の手には美しい青の首飾りが握られていた。 「……綺麗ですね。これは?」 「わたしの国に伝わる悪を打ち払うという魔石の首飾りだ。確か名をエラルドという。意味は清らかさだと言われている。これを君に託したい」 王子はぐいと押しやるように渡して無理にルエナの手に握らせた。そしてあわただしく彼は村を後にした。 その後、王子はクーデターを起こして新しい国を作る。フォルド王国の誕生であった。 が、王子は初代国王になった後ルエナの元に来る事はなかった。ルエナには一人娘が生まれていたが。 忘れ去られながらもルエナは立派に娘を育て上げた。娘が成人した時にルエナはエラルドの首飾りを手渡して授けたという。 後にルエナの娘はフィーラ公爵の祖先の青年に嫁いだ。今でもルエナが王子に賜った首飾りはフィーラ公爵家の家宝として大事に保管されているというーー。 「というお話です。これ実話だそうですよ」 ウェルズ先生はそう言ったが。俺は拍子抜けした。 初代国王、ちょっとルエナさんに対しての塩対応はひどすぎねえか? そんな感想を俺は持ったのだった。 ウェルズ先生は紅茶を飲み終えると帰って行った。 リアナは見送るために部屋を出る。俺はドアが閉まるとふうと息をつく。 ウェルズ先生の話は実話らしいが。初代国王、うちの親父よりひでえ。 まあ、日本ー前世の父親は母親を大事にしていた。あの父と比べたら親父は随分と若いし優秀だが。 浮気癖はひどいものだった。まず、俺の母の王妃に満足してねえだろ。あの親父。 だから、母に愛想を尽かされるんだ。ざまあとは思う。ちなみに俺以外にも王子はいる。 母が生んだ俺と第二王子、二番目に入った側妃の生んだ第三王子と第一王女の四人の子供が親父にはいた。 親父は母に目もくれず、側妃の宮にばかり入り浸っている。 現在、第二妃以外にも第三妃までいてちょっと厄介な事になっていた。 このまま、シェリアたんが俺の妃になったら第二妃と第三妃から命を狙われるだろう。ちなみにスフィア侯爵の娘が第二妃で名をフェリシアといった。 フェリシア妃はなかなかに狡猾でしたたかな人だ。 気をつけた方がいいだろう。 俺は寝室に行くと机の一段目の引き出しの鍵を胸元から出した。それで開ける。 引き出しを引いて中にある日記帳を出した。 「よし。まずはここだ」 一人呟きながら日記帳のページを繰る。すると第二妃のフェリシアについて書かれていた。 それには「第二妃とスフィア侯爵がシェリア断罪の真の黒幕。第三王子のリチャードを王太子にさせたいがためにシェリアを利用する。が、いち早くエリック王子と国王、ラウル王子が陰謀に気づいた。ラウルは根回しをしてスフィア侯爵とフェリシア妃、第三王子を捕縛。が、王妃候補のアリシアーナを誘拐して殺害しようとまでしたシェリアは言い逃れもできず、芋づる式に捕まる。結局、エリックはシェリアを助けることもなく牢獄に入れられた。シェリアは呆気なく断頭台で若い命を散らした」とある。 やばい。俺はやっと相対するべき敵が見えた。 スフィア侯爵とフェリシア妃。この二人をどうにかしないとシェリアたんが本格的にやばい。 俺は時間はあるとはいえ、ラウルを味方に引き入れるべきだと決めたのだった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加