5話

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5話

  俺はラウル――叔父をどうやって味方に引き入れるか考えた。 ふむ。仕方ない。ちょっと外に出よう。 そう思った。シェリアたんは今日も王宮に来ているだろうか。遠目からでも元気か確認しよう。 人目につかない所でシェリアたんの姿をウロウロと探す。けど見つからない。 どうしたのだろう。シェリアたんに何かあったのか? そんな風に半泣きになりながら夢中で婚約者である少女の姿を求めて彷徨う。 「……あら。僕。こんな所で何しとるん?」 何故か、後ろからフォルド王国ではありえない言語で声をかけられた。 俺の勘違いでなければ、これって関西弁だろう。 「あの。僕って俺の事ですか?」 「そうや。君しかおらへんやん。でもまあ、うちの息子にどことなくやけど。似とるなあ」 「……お姉さん。うちの息子に俺が似てるって。もしかして父上の知り合いだったりしますか?」 俺が当てずっぽうに訊いたらお姉さんは薄茶色の瞳を細めて笑った。 どこかで見たことがあるなあ。このお姉さん。 うーむ。そうだ、このお姉さん。ラウルに似てるんだよ。 目元が確かに似ている。もしや、大叔母のラウルの母君である先代の王妃様だろうか。 「そうやわ。あたしはスズコ・イルミナ。先代の国王さんの王妃やったんよ。で今はただの伯爵家の居候やけど」 そうだ、スズコ様はラウルの母君だ。けど、ゲームではスズコ様は出てこなかったはずだが。 それとスズコ様は先代の陛下の二番目の王妃だった。けど、ラウルを生んだ事で状況は大変な事態になる。 最初の王妃が生んだ第一王子と王位を巡って争いが起きた。それによりスズコ様は命を狙われた。 スズコ様は王位継承争いから身を退く事を選んだ。それによりラウルと共に田舎で暮らしていたと聞く。確かラウルは10歳になった時にラルフローレン公爵家に養子に行くはずだ。 「……失礼しました。スズコ様。あの。ラウル叔父上も一緒なのですか?」 「うん。そうなんよ。けどはぐれてしもて。どこ行ったんやろ、あの子」 「役に立つかわかりませんが。付き添いの騎士と一緒に探しましょうか?」 そう言うとスズコ様は申し訳なさそうにする。 「ごめんな。君には迷惑をかけてまうな」 「気にしないでください。それより探しに行きましょう」 そないするわとスズコ様も頷く。俺は付き添いの騎士のジュリアスとエルにラウルを探しに行くと告げる。 「殿下。ラウル様のおられる所に心当たりはありますか?」 「……うーむ。とりあえずは父上の執務室に行ってみる。ジュリとエルは庭園を中心に聞き込みをしてみてくれ」 「わかりました」 ジュリアスが答えた。俺はスズコ様と共に親父の執務室を目指して歩き出した。 親父の執務室のドアの前まで来た。俺が会いに来たと言うとドアの前の護衛役の騎士が「少々お待ちください」と告げて中に入る。 取り次ぎをしているらしい。少しの間待つと騎士が良いですよと言ってきた。 頷いてもう一人の騎士がドアを開けるのを待つ。そうして執務室の中に入った。 「……おや。これはエリックとスズコ殿ではないか。どうした?」 親父が不思議そうに問いかけてきた。俺は親父に一礼する。スズコ様も綺麗なカテーシーをして挨拶をした。 「お久しぶりです。陛下」 「ああ。久しぶりだな。スズコ殿」 親父が答えるとドアが閉められた。 「スズコ殿。頭を上げてくれ。楽にして構わん」 「ありがとうございます」 スズコ様と親父の挨拶が終わると俺はタイミングを見計らって訊いた。 「あの。父上。先ほどスズコ様と出くわして。唐突ですが。ラウル叔父上を見かけませんでしたか?」 「……ラウルか。あいつだったらここの裏庭にいるぞ。今は女の子と一緒に遊んでいるようだが」 「そうですか。わかりました、裏庭ですね」 ふうとスズコ様が胸を撫で下ろした。余程心配だったらしい。 「ありがとうございます。陛下。エリック殿下もありがとうございました」 そう言ってスズコ様は黒髪を揺らして裏庭に行ってしまった。俺も付いて行く。一緒にいるという女の子が気になったからだが。 「では。失礼します。父上」 「うむ。ご苦労だったな。エリック」 親父がそう言うのではいと返事をした。そうして裏庭に向かった。 案の定、ラウルは執務室の裏庭にいた。深みのある藍色の髪と淡い琥珀色の瞳が美しい女の子と一緒にいたが。 何でよりにもよって婚約者のシェリアたんと一緒にいる。ラウルにちょっと腹が立つ。シェリアたんはまだ俺のであんたに譲った覚えはないんだがな。 「あ。ラウル。探したんよ」 「……母上。僕はずっとここにいましたよ」 「もう。すぐそう言う事言う。ラウル、いつも注意しとったやろ。ふらっとどこかに行くのはあかんって」 「ごめんなさい」 「……まあ。無事やったからええけど。今度からは気いつけてえや。あ。それとそこの子。ラウルと一緒にいてくれてありがとうな」 スズコ様がお礼を言う。シェリアたんははにかみながらも丁寧にお辞儀をする。 「いえ。おやくにたてたならよかったです」 「……スズコ様。この子は俺の婚約者でシェリア・フィーラ公爵令嬢です。ありがとうな。シェリア殿」 彼女の名を告げるとスズコ様とラウルは一様に驚いた顔をする。どうしたのだろうかと俺は不思議に思ったのだった。
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