8話

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8話

  ラウルが暗殺されそうになった日から3日が経った。 3日前、親父の執務室にて俺とラウルは色々と聞かれた。仕方なく、俺は自分が見た事そのままを説明する。ラウルも同じくだ。確か、一時間半は事情聴取をされたと思う。親父とその場にはウィリアムス師、宰相もいたが。 とにかく3歳児にはきつかったとだけは言っておく。 その間、騎士団がラウルを狙った連中について捜査している。陣頭指揮は中隊長のエルがしているらしい。後でジュリアスが言っていた。 そうそう、ジュリアスとエルはラウルを探していた日に俺やスズコ様がいなくなって相当慌てたそうだ。部下や同僚も同じくで。まあ、スズコ様とシェリアたんが一緒にいたらしい騎士に「エリック王子とラウル叔父上は剣術の稽古に行った」とジュリアス達にも伝えるように言ってくれたらしいが。 シェリアたんとスズコ様がいなかったら親父と王妃であるお袋に雷を落とされていただろう。いや、本当に。 てまあ、半月以上も前の話ではあるがな。けど、おかげでジュリアスとエルに凄え怒られた。仕方なくはある。 いやあ、シェリアたんはやっぱいい子だ。悪役令嬢であるのが勿体無い。 「……殿下。顔がにやけてますよ」 「ジュリ。ほっといてくれ。こういう時くらい、余韻に浸らせてほしいんだ」 「はあ。でも3歳とはいえ、男がにやけているのはちょっと。不気味ですよ」 不敬もいい所な事を言われた。何が不気味だ、何が。 「まあ。仕方ないですよね。安全のためとはいえ。部屋に閉じ込められているわけですからね」 「……まあそうだな。ジュリ、ウェルズ先生は今日もお休みかな」 「うーんと。リアナさんによるとお休みだそうですね」 俺はそうかと項垂れる。はあ、こう3日も閉じこもっていると退屈だ。 仕方ないので絵本を開いた。ふーむ。この絵本はウェルズ先生がくれた物だ。 あらすじとしては初代国王とルエナの悲恋話と同じようなものである。 昔々、ある所に美しい娘がいた。その娘の住んでいる村は干ばつで農作物が取れずにいた。村の人々は干ばつの原因は裏山に住むドラゴンが怒っている事だと考える。 そこでドラゴンの怒りを鎮めるために生贄を捧げようという意見が出て皆賛成した。が、生贄を誰にするかで揉めた。その話を聞いていた娘は自ら名乗りを挙げた。 娘は翌日、早速真っ白な衣服を着て髪を結い、薄化粧を施してもらった上でドラゴンの住む裏山ー滝壺に向かう。滝壺にたどり着くと村の人々は怖がってすぐに娘を置いていなくなる。1人で娘は滝壺にゆっくりと近づく。 すると黒いドラゴンが滝壺から姿を現した。ちなみにドラゴンと絵本にはあるが俺の前世の知識でいうと東洋の龍と言った方が良いように思う。 さて、黒いドラゴンは娘に何しに来たのか問いかけた。娘は「干ばつで雨が降らず、皆困っている。そこで自分が生贄として来た」と説明する。ドラゴンは娘の説明を聞いて困って考え込んでしまった。 自分は確かに雨を降らせる力はある。が、怒っていて干ばつにしているのではない。天がそう決めているのだと娘にドラゴンは告げた。娘はそれを聞いて驚く。村の人々が言っていたのとは話が違う。考えた娘は自分の命を使っていいから雨を降らせてほしいと懇願する。 ドラゴンは余計に困り果てた。仕方ない、娘の命を使うのは最後の手段。自分が天に呼びかけてみるから待っていろと言ってドラゴンは空に飛んでいく。するとたちまち雨が降り出した。それは土砂降りの雨であったが。何カ月ぶりだろうと娘は1人喜んだ。 ところがけたたましい雷が鳴り雨と一緒に赤いものが娘の元にも降り注いだ。 娘は目を疑う。黒いドラゴンの体が地面に落ちてきたからだが。そう、勝手に雨を降らせたせいでドラゴンは天の裁きを受けた。そのせいで体を八つ裂きにされた。 娘はそれに気づき、ドラゴンに謝り詫びた。しばらくして雨は止んだ。娘は戻り村の人々に訳を話した。ドラゴンが話しを聞き入れて天に掛け合ってくれた。だが、天は聞き入れず、ドラゴンは独断で雨を降らせた。しばらく経ってドラゴンが八つ裂きにされたのが見えたと。 泣きながら娘が話し終えると村の人々はただ事ではないと思う。その後、村の人々総出で八つ裂きにされたドラゴンの遺骸を探し回る。8つあった遺骸を8箇所にそれぞれ埋めて供養をした。 後にその8箇所に寺が建てられた。ドラゴンー龍を祭り、現在でも雨乞いなどの寺として有名だという。 俺はそこまで読み終えて何とも言えない気持ちになる。ドラゴン、可哀想過ぎるだろ。八つ裂きなんて天の神様、怖え。 娘が泣くのも当たり前だな。そう思いながら本を閉じた。確かこれって東方の島国の話だったか。ウェルズ先生、どこで入手したんだろ。 「殿下。その絵本、どんな話か聞いていいですか?」 「……うーむ。簡単に言うとドラゴンが村のとある娘の願いを叶えて天の神様に殺されるっていう話だな。ちょっとドラゴンが気の毒というか」 「そうですね。殺されるっていうのが怖いというか」 「まあそうだな」 「ウェルズ先生、どこでその絵本買ったんでしょうね」 「……俺もそれ思った。今度聞いてみる」 そうなさったらいいですねとジュリアスが言う。ちょっと顔色が悪いが。 俺はシェリアたんをラウルに託そうかと考えた。ふとそう思ったのだ。 いつ話そうかと頭を働かせるのだったーー。
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