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「知ってる? 月が赤く染まった日には、が起きるらしいよ」  ふと、美羽(みう)が月を見上げながら言った。本で読んだ、と続けて言う。僕は美羽に釣られて月を見上げると、まん丸なお月様に向かって「へー」と呟いた。 「もー、(じょう)くん信じてないでしょ?」  美羽が少し頬を膨らませながら言った。僕は「うん」と正直に言う。だって月が赤く染まっただけで大災害が起きるなんて、たまったものじゃない。光の加減で月が赤く染まるなんてこともあるかもしれないじゃないか。それに美羽が読んだ本というのは、きっとファンタジー小説か何かだろう。 「ブラッドムーンって言葉あるの知ってる?」 「何それ?」  美羽が興味津々というような表情で僕に聞く。 「皆既月食の時に、月が地球の影に隠れることで月が赤く見える現象のことだよ。こういう現象があるんだから、赤い月になっても大災害は起きないよ」  僕は本で読んだ知識を披露する。美羽は「ふーん」とつまらなそうに言って、それからまた月の方を見てしまった。  もうほとんど毛がない髪を隠すように帽子を被った美羽が、窓枠に手をかけて外に手を伸ばす。僕が「危ないよ」と注意するも、美羽は止めなかった。美羽は癌を患っていて、この病院で入退院を繰り返しているらしい。胃腸炎で短期間の入院を求められた僕とは大違いだ。  僕が美羽と初めて出会った時に大人にはなれないんだ、と悲し気に言っていた。まだ10歳という小さな女の子が現実的なことを言った時、二つ上の僕は自分が描いていた理想が馬鹿らしくなった。 「あーあ、本当に大災害なんて起きちゃえばいいのに。そしたら皆、美羽と同じで学校に行けない」 「そんなこと言わないでよ」 「あはっ、ブラック美羽ちゃんが出ちゃった。忘れて、忘れて」  美羽は明るい笑顔でそう言うも、その瞳からはさっきの言葉が本気だったように見受けられる。
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