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学校に行けないってどんな気持ちなんだろう。大人になれないってどんな気持ちなんだろう。自分の命が長くないって10歳ながら知るって、どんな気持ちなんだろう。分からない。僕には到底理解できない感情だ。
「ねぇ、美羽」
「何、丈くん」
「もし本当に月が赤く染まって大災害が起きたら、どうする?」
美羽はしばらく考えると、「分かんないや」と言った。
「多分、本当にそんなこと起きたら美羽、パニックになっちゃうと思う」
「だろうね、僕もなると思う」
「丈くんがパニックになってる姿、見てみたいかも」
「嫌だよ。ならなくていいなら、なりたくない」
美羽が楽しそうにくすくす笑った。
「大災害が起きたら、丈くんが美羽を助けてよ。美羽は病院から出られないから。丈くんが美羽を病院から連れ出して」
僕は一瞬美羽を見てから、また月を見上げた。満月の優しい光がそっと僕たちを包み込むように照らしてくれる。
「ダメだよ。美羽は病気なんだから。逃げ出すより、ちゃんと療養した方が良い」
「もー、丈くんのケチ!」
美羽が頬を膨らまして僕を睨んだ。僕は「ケチじゃない」と冷静に返す。
「少しは優しくしてくれてもいいのに……」
美羽が不機嫌そうに呟いた。すると突然足音が聞こえ、ガラガラガラとドアが開く。懐中電灯を持った看護師さんが僕たちがいる方を照らした。カーテンをそっと開け、月を見ている僕たちに呆れた溜息を落とす。
「もう美羽ちゃんと丈一郎くん、こんな時間まで起きてちゃダメでしょ? ほら、もう寝なさい。丈一郎くんは部屋に戻る」
「はーい」
僕は大人しくそう言って美羽のベッドから降りると、美羽に別れを告げてそのまま自分の部屋に戻った。
翌日、美羽は死んだ。
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