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ーpresentー
──続いてのニュースです。いよいよ、スーパームーンの日が近づいてきました。
僕は朝ご飯を食べながらそんなテレビニュースに耳を傾ける。女性キャスターが喜々とした発音でそのニュースを伝えていた。そうか、今年のスーパームーンは8月にあるのか。8月のスーパームーンはスタージェンムーン。チョウザメ月とも呼ばれるらしい。
確か「赤い月」とも呼ばれたんだっけ。
僕は箸を置くと、「ご馳走様」と言う。流し台に食器を運んで、外に出た。
北海道の夏は都心と比べてそこまで暑くない。冬はめちゃくちゃ寒いし、雪が積もるから鬱陶しいけど、夏は快適だと思う。僕が自転車を漕いでいると、夏の風が頬を撫でた。赤い月、なんて言葉を久しぶりに言った気がする。美羽が死んで以来、僕はあの病院にすらも、赤い月のことすらも忘れようと心掛けていたから。
12歳の僕にとって、身近な人が死ぬことは初めてだった。祖父母もまだ元気に生きていたから、美羽の死は僕にとってかなりの衝撃だったことを覚えている。もう顔も薄っすらとしか思い出せないけど。そりゃそうか、あれから5年経つんだから。
僕は自転車から降りると、定位置に自転車を止めて教室に向かった。途中、何人かのクラスメイトとすれ違って挨拶をする。教室に入ると「丈ー、おはー」とかそんな声が僕を襲った。僕は一人一人に挨拶を返し、席に座る。
「丈、おっはよ」
空いている一個前の席に亜季が座る。黒縁メガネを掛けた中肉中背の男子。僕の親友だ。
「おはよう、亜季」
「なー、もうそろそろでスーパームーンだって」
「あー、みたいだな」
「何だっけ? スタージェルムーン?」
「スタージェンムーン」
僕が正すと「さすが丈」と亜季が言って笑った。
「亜季、天体とか興味あったっけ?」
「無い。でもあんだけニュースでやってたら、嫌でも耳に入るだろ」
「そっか」
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