ーpresentー

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「丈はスタージェルムーン、見に行くんだろ?」 「スタージェンムーンな。勿論」  そうだった、と亜季がけらけら笑った。さすが天体好き、と続けて言う。 「あ、そう言えばさ。今日転校生来るらしいよ」  亜季がさらっと話題を変える。僕は「そうなんだ」と相槌を打った。それを見て、亜季がつまらなそうな顔をする。興味無さそうだな、とでも言わんばかりの表情。 「めっちゃ可愛い女子だって」 「ふーん」 「ったく、本当に丈はそういうのに興味無いな。お前は本当に男か? もっと欲を持て」  亜季が訴えるように言う。周りもそれを聞いて「そうだ、そうだ!」と話を分かっていないのに分かったように言った。失笑が零れる。欲なんて、当の昔に捨てた。あんな小さい女の子が現実を悲し気に話す姿を見たら、欲なんて持てなくなるさ。 「それにしても明後日から夏休みって日に転校って、何だか不思議だな。いつもなら夏休み後だろ?」  キーンコーンカーンコーン、と無駄に長いチャイムが流れる。チャイムが無駄に長いのって、遅刻しそうな人をギリギリ遅刻させないための優しさだと思う。だって鳴り終わるまで大分時間があるし、それまでに教室にいれば大丈夫だし。でもその分授業が数秒長く終わるんだけど。無駄に長いせいで。良い所もあれば、悪い所もあるんだよな。  教室に入ってきた担任の姿で、生徒たちが自席に戻った。男子たちは転校生の姿に興奮が抑えきれないのか、ソワソワしている。あれが噂の転校生か。興味無いけど。  さらっさらの黒髪に、白い肌、きゅるんとした目。まさに男子が好きそうな女子の容姿、という感じだな。僕は窓の外に視線を移す。片耳で担任の話を聞き、転校生の自己紹介を聞いた。 「桂木(かつらぎ)美羽です。東京から来ました。仲良くしてくれると嬉しいです。宜しくお願いします!」
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