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桂木美羽──僕は転校生に視線を動かした。今、桂木美羽って言った? パッとぼんやりとしか思い出せなかった美羽の顔が浮かぶ。あの美羽も桂木っていう苗字だった。同姓同名、まぁいないこともないけど。
「じゃあ棚木ー、桂木の案内頼んだ」
「え? 僕っすか?」
「お前いつもホームルーム上の空だからな。罰だ」
僕が間抜けな声を出すと、担任が「頼んだぞー」とOKもしてないのに勝手に僕が承諾したような台詞を言う。桂木さんが僕を見る。ニコッと微笑んだ。その瞬間、男子の殺気溢れた目が僕に注がれる。そんな目で見るなよ、と僕は男子たちの方を見た。変わってくれるなら、僕は変わってほしいくらいなのに。
「じゃ、ホームルーム終わり。解散」
号令の挨拶でホームルームが終わった。僕が立ち上がる前に桂木さんが僕に近づく。知覚で見たらより可愛さが際立つのが分かった。鼻筋の通った鼻にぱっちり二重の目、長いまつげはくるんと上向きになっている。東京から来た、と言っていたが東京という都会の香りがぷんぷんした。
「初めまして、棚木くん。宜しくね!」
僕は会釈をして、桂木さんの横を通る。亜季の所に行くと、亜季に首根っこを掴まれて「羨ましいぞ、この野郎!」と小声で言われた。後ろを見ると、既に桂木さんの周りには沢山の女子が群がっている。男子もそわそわした様子で周りに立っていた。
お前ら、次は移動教室だぞ。なんて言ったら多分殺されるな。俺らにも桂木さんと話させろ、なんて怒られる気がする。いや、気がするんじゃなくて絶対に怒られるわ。だから僕は何も言わずに亜季を連れて、理科室に向かった。
桂木美羽──久しぶりに名前を聞いた。美羽は天国で元気にしてるかな?
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