3人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
「これで一通り校内は紹介したけど。何か質問ある?」
「棚木くん、下の名前って丈って言うの?」
「丈一郎。略して丈って呼ばれてる」
「そうなんだ。丈くん、って私も呼んでいい? 女子も皆そう呼んでるっぽいし」
丈くん。じょう、じゃなくてジョーってカタカナで呼ぶ感じ。美羽にそっくりだ。ハッとなって、僕は「あ、うん」と慌てて返す。すると桂木さんがパッと笑顔になって「ありがとう!」と言った。
「私のことも美羽で良いからね」
「あー、うん。気が向いたら」
「それ絶対呼ばないやつ」
桂木さんが愉快そうに笑った。
「ねぇ、丈くんって天体が好きなの?」
「……誰から聞いたの?」
「亜季くん」
あの野郎、いつ桂木さんと仲良くなったんだ。僕は溜息を吐くと「まぁ」と素っ気なく答えた。
「私もね、好き。今度スーパームーンがあるよね。スタージェンムーン」
「うん」
「丈くんは見に行くんでしょ?」
「まぁ」
「私も見に行きたいなぁ」
これは、遠まわしに誘ってくるのを待ってるのだろうか。東京の女子というのはこんなに男性に思わせぶりな態度を取るのか?(偏見)
「私、北海道来たばっかだからさ、まだ全然土地感覚なくて。どこが一番お月様見えるのかとかも分かんなくてさ。丈くん、良い場所知ってる?」
「まぁ」
「教えて!」
急に目の前に桂木さんが立って、行く道を塞いだ。キラキラした目は、本当に天体が好きなんだなということを感じさせる。何か久々にこんな好奇心に満ち溢れた瞳を見た気がする。
「大きな病院の近くに丘があって。そこの頂上は天体が綺麗に見えるベストスポットだよ。夏にはラベンダーが一面に咲いたりもするんだ。街灯もあんまり無いし、星も綺麗に見えるよ。運が良ければ、流れ星も見れるんじゃないかな」
「何それ、絶景じゃん」
桂木さんが熱を持った声で言う。「東京にはそんな場所無かったから」と嬉しそうに呟いた。そうか、東京は街灯だらけだから星もまともに見れないと聞いたことがある。それに比べて、ここは北海道内でも比較的田舎だし、街灯も少ない。だから星も綺麗に見える。
最初のコメントを投稿しよう!