鍵の皇子と血色の撫子

1/22
59人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ

鍵の皇子と血色の撫子

 葡萄酒のようなものだと思っていたのに、実際に蓋をあけてみたら南国で生産されている柑橘類のような香りがした。  見た目はおどろおどろしい紫色だが、中身は子どもが喜んで口にしそうな甘ったるい果汁飲料なのだという。  魔術師であり侍女である壱畝(ひとせ)は、これが世界中で重宝されている、『真実をさらけ出す薬』だと、撫子に教えてくれたけれど……    * * *  この賀陽成佳国(かやなりのかのくに)、通称かの国の東都に暮らす公爵令嬢で、国の中枢で政治を執り行っている神皇家(しんのうけ)の第三皇子と生まれた頃から婚約している白鷺宮(しらさのみや)撫子(なでしこ)はまもなく拾八の誕生日を迎えようとしていた。  家柄によって一方的に決められた婚約者とは、幼い頃に一度顔を合わせたきり。あれからいろいろなこと(・・・・・・・)が起こり、一時は婚約破棄をするのではないかとの噂もあがったが、撫子と第三皇子の婚約はいまもつづいている。まもなく女学校を卒業する撫子は、問題なければこのまま神皇家に嫁入りし、皇子妃として新たな人生を歩むことになるのだが、当の第三皇子からの連絡は届いていない。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!