マツリノアト

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 茶化さず朱梨の目を見て、俺は言った。これで断られたら、もう今まで通りにはいられなくなるのを覚悟の上で、俺は伝えた。  朱梨は間もなくして、「うん」と頷いてくれた。  俺はガッツポーズをしたいほどの喜びに駆られる。だけれど、表に出すのははしたなかったので、にやつきそうになる口元を懸命に堪える。  そんな俺を見て、朱梨はふうと一つ息を吐いた。まるで肩の荷が下りたかのように。 「よかったあ。奏汰がやっと言ってくれて。これでも私不安だったんだよ? ずっとこのままの関係で終わっちゃうんじゃないかって」 「それはごめんな。俺の踏ん切りがつかなかったから、お前をやきもきさせて」 「いいよ。もう謝らなくて。決心ついたんでしょ? だったらその決心が曇らないうちに、さっさと奏汰の家行こうよ」  朱梨はおもむろに立ち上がった。橋を通る車のヘッドライトに照らされて、後光が差しているように見えた。  俺も立ち上がって、スニーカーを履く。  レジャーシートを協力して畳んで、俺が持ってきたリュックサックにしまうと、俺たちの重みでへこたれた雑草が姿を現した。でも、また朝になったら日光を求めて、元気に伸びているのだろう。  俺たちはどうだろうか。どんな朝を二人で迎えているのだろうか。  想像すると、心の奥がくすぐったい感じがした。 「ねぇ、奏汰。本当に親には連絡しなくてよかったの?」  河川敷の上を二人で並んで歩いていると、朱梨が聞いてきた。  道路にはもう人っ子一人いない。道案内をしていたスタッフも、もう撤収したようだ。 「大丈夫。さっきはあんなこと言ったけど、たぶんウチの親、今日は朝まで呑んでると思うから」 「えっ、それって仕事は大丈夫なの?」 「うん。ウチの親、遅めの夏休みを取っててさ。明日から三日間休みなんだ。だから、今日は思う存分呑んでくるはず」 「そっか。それなら、心配はいらないね」 「ああ、偶然に感謝だ」  俺たちはわけもなく笑い合った。空は暗くても、目が慣れてきたのか前だけは、はっきり見えていた。  街の明かりが少しずつ近づく。俺たちは足元に気をつけながらも、足早に駅を目指す。  早く家に着きたい。そう全身の細胞が叫んでいた。 (完)
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