マツリノアト

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「できすぎだよね」  ぼそっと呟く朱梨に、俺はとりたてて反応はしなかった。  言いたいことはうっすらとは分かっていながらも、俺は単純な奴を装って「何が?」と聞き返す。 「今日の日付。八月三一日が日曜日なんて、数年に一度じゃん」  やはり朱梨は俺と同じことを考えていた。毎年夏の終わりに開催されるこの花火大会だが、こうもはっきりと三一日に設定されると、少し作為的なものさえ感じてしまう。  まるで、夏は今日をもってきれいさっぱりおしまい。明日からは新しい季節が始まるよ、と言っているみたいだ。天気予報では明日も真夏日だというのに。 「そうだな。なんか図ったみたいだよな」 「あーあ、明日からまた学校かぁ。面倒くさいなぁ」  足を伸ばしながら言った朱梨に、俺も頷いた。学生の身分では、いつまでも自由を謳歌することはできない。 「でも、久しぶりに友達と会えんじゃんか。何話そうかって考えるだけで、少し楽しみにならない?」 「別にー。優子や紗枝とも二日に一度は会ってたし。それに毎日ラインしてたら、話題も出尽くしちゃって、新しい話なんてなくない? せいぜい今見た花火くらいだよ」 「いいじゃんか。花火の話しろよ」 「でも、二人とも家から花火見えるって言ってたしなぁ。写真を見せたところで、そんな盛り上がんないかも」 「そのときは、オノマトペで花火が上がるところを再現すればいいだろ。ヒューーー、ドッカーンって」 「何それ、ただのヤバい奴じゃん」  朱梨が軽くつっこんで、俺たちは吹き出したように笑いだす。小さなえくぼが、横目で見ても愛らしい。  俺たちと同じように混雑を避けようと、まだ河川敷にいる人間は数人いて、少し離れた場所からは男の子の弾むような声が聞こえた。 「なぁ、朱梨」 「何?」  思い立ったまま、ふと呼びかける。朱梨の口元には、かすかに焼きそばの油がついて、艶めいていた。思わず息を吞む。言いたいことがあったはずなのに、朱梨の顔を改めて目の当たりにすると、全て吹き飛んでしまう。  束の間の沈黙。  自分から話しかけた手前、何か言わなければと思った俺は、見当違いなことを口走った。 「今年の夏休みはさ、百点満点で言うと何点?」 「何それ、テストみたい」
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