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「ごめんごめん。奏汰が柄にもないこと言うからさ。だって『家来ない?』とか言ったの初めてでしょ? 顔真っ赤っかだよ」
今まで抑え込んでいた恥ずかしさがとうとう吹き出し、俺は思わず顔を触っていた。ひりつくように熱い感覚。
朱梨は口元を緩めているから、おそらく本当なのだろう。
穴があったら入りたいという言葉は、こういうときに使うんだな。
「そうだよね。私たちもう付き合い始めて一年も経ってるのに、今までお互いの家なんて行ったことなかったもんね。いつも学校で会うばかりで、休みの日も現地集合現地解散で。別に誰かに隠してるってわけじゃないのにね」
「ごめん。俺がビビりで臆病なせいで」
「いやいや、別に責めるつもりで言ったんじゃないよ。そういうプラトニック? な恋愛も私は嫌いじゃないし。まあいつ次のステージに進めるんだろうとは思ってたけど」
朱梨がそんな風に思っていたなんて知らなかった。自分の不甲斐なさに首を垂れたくなる。
ひょっとしたら、朱梨は俺が家に誘ってくるのを待っていたのかもしれない。都合の良い想像だと分かっていながらも、俺はその可能性を捨てきれなかった。
「えっ、誘ってよかったの?」
「うん。まあこっちの都合も当然あるんだけど、言ってくれれば基本的にはいつだってよかったよ」
顔を赤らめている俺とは対照的に、朱梨はまったく恥ずかしがっていなかったから、俺は今までの自分の臆病さを責めたくなった。
今日みたいに思ったことも、一度や二度じゃなかった。しかし、その度に朱梨に嫌われる未来を考えて言えなかった。
いや、朱梨のせいじゃない。俺に勇気が足りなかっただけだ。今日でこれまで逃げてきた自分に、終止符を打つ。
俺は睨むのをやめて、それでも朱梨から目を離さなかった。
河川敷が静まり返ったように感じる。川の流れも橋を通る車の走行音も、全てが今の俺たちからは遠かった。
「そうだな。じゃあ、俺たちそろそろ次のステージに進もっか」
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