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食欲がない。
沢井という女性警察官が来てからというものの、辰郎はしぼんだ風船のように弱っていた。
あの女はどこまで調べているのだろう。
もうすでに、辰郎が目撃者だと確信しているのだろうか。
それにしてもとてつもない執念だ。
あの女は街の防犯カメラをくまなくチェックし、点と点を線にしながら、辰郎の住む町まで捜査の手を広げてきたのだ。そしておそらく、一件ずつ家を訪問し、目撃者の候補となる人物を捜し歩いている。
捜査本部の指示を無視してでも、と言っていた。
本部には内緒で、独自で捜査をしているのかもしれない。
もしも辰郎が目撃者と認定されれば、警察に話を訊かれることになるだろう。
出張と嘘をついていたことがバレたら、それだけで妻は浮気だと確信する。
辰郎は手足の先端が冷たくなっていた。
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