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辰郎はガードレールの脇に身を潜めた。唇をぐっと結びながら喧嘩の様子を凝視する。
「オラ! オラ! くたばれクソガキが」
中年の男が、もう一人の男を壁に押しつけ、拳をぶつけている。
「ぐっ・・・・・・やめてくれ」
殴られているのは若い男で、両手を前に出し相手の拳を必死に防いでいる。
だが中年男の拳はとどまることを知らず、若者の顔や腕、横腹を殴打する。
顔を歪めた若者は、やめてくださいと懇願しはじめた。
――早くとめないと。
そう思ったが、辰郎の腰は引けていた。体が動かない。
「この! この! 」
「うっ・・・・・・」
振りかぶった拳が若者のこめかみにヒットし、その直後、後頭部がコンクリート壁に激しくぶつかった。
若者の身体から力が抜けていき、ぐったりとその場で倒れてしまった。
「けっ。もう終わりかよ」
男は唾を吐くと、薄暗い高架下から去っていった。足がふらついている。
おそらく若者は、この酔っ払いに因縁をつけられたのだろう。
――こういうのは関わったらダメだ。
奥歯をガタガタ震わせながら、辰郎はその場から走り去っていた。
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