第一章

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「帰らないの」 「もうすぐ帰るさ」 そう言ってまた歩き始めた。 辺りは薄暗くなり始め、さっきまで沢山の人が行き交っていたのが嘘のようだ。 周りには灯りを持ちながら歩く人もちらほら出てきた。 「ねぇ、また試してるの」 「……今度は本物だな」 辺りに人がいなくなった時、私たちの目の前に五人組が現れた。 それも全員、刀を抜いている。 私は刀に手をかけた。 「新撰組、土方だな」 「それがどうした」 「お命頂戴する!」 土方の名前を確認すると同時に斬りかかってきた。 私もすぐ刀を抜いて応戦した。 「土方、そこでじっとしてて」 私は土方に刀を抜かせなかった。 一人、二人と斬り捨て、残るは三人だ。 私は土方の前に立ち、刀を構え、息を吐いた。 「お前、何者だ」 「……これから死ぬ人に答えても意味がない」 私がそう答えると二人、その言葉に腹を立てたのか、斬りかかってきた。 無駄だよね。 刀を振り上げたって、振り下ろすのが遅いんだから。 私は刀を上に振り上げた瞬間に間合いに入り、横一文字に斬り捨てた。 「ひっ……!」 そして、残った一人が背中を向けて逃げようとした。 刀を抜いたのはそっちなのに、情けない。 私は背中をばっさり斬った。 背中の傷は武士の恥、というのを忘れてしまったのか。 逃げ傷を負うんだから、弱いことを、情けないことを知られちゃう。 「終わった」 「ご苦労。怪我は?」 「ない」 私は頬に飛んだ返り血を手の甲で拭った。 血生臭い臭いが辺りに充満している。 「山崎」 「はい」 何処からともなく現れた山崎は、昼間に会った人とは別人のようだった。 喋り方も雰囲気も、あの時のような親しみやすさは何処にもなかった。 「こいつら処分しておけ」 「御意」 そう言ってまた姿を消した。 私は刀についた血を払い落とし、鞘へと納めた。 土方は私の頭にポンと大きな手を乗せた。 「本当に強いな」 「これしか出来ないから」 私たちは屯所へと帰った。
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