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第一章
寒い日だった。
「お、鬼…!」
一人の男を斬った。
返り血が頬に飛んだ。
手に残る肉、骨を斬る感覚。
でも、もう慣れた。
私にはこれしかないから。
刀を握る手に息を吐いた。
「やるじゃねぇか」
「誰…!?」
私が後ろを振り返ると、長い黒髪を一本に結い、端正な顔立ちをしている男がフッと笑ってこっちに近付いてきた。
左の腰には刀が二本差してある。
私の敵…?
それとも……
「俺は新撰組副長、土方歳三。お前は?」
「……名前はない」
新撰組。
確か、まだ出来たばかりの浪人の寄せ集め集団。
浅葱色のだんだら羽織を着て町を集団で歩いているのを見たことがある。
荒くれ者集団とされ、町の人からは恐れられている。
私の敵ではないが、殺せと言うのなら私はやるしかない。
血の付いた刀をきつく握り締めた。
「お前が欲しい」
唐突な言葉に私は目を丸くした。
変な人。
私のこの状況を見たら人斬りだって分かるはずで、敵かもしれないこの状況でこの人は一体、何を言っているんだろう。
「……私をどうするつもり」
「別に。俺は強い奴が欲しい。それだけだ」
「私が…貴方を殺すなんて考えは…?」
「ねぇな。殺すつもりならもう殺されてる」
間違ってはいない。
だけど、それは少し違う。
「私の仕事に貴方の名前がないだけ…。ただそれだけ」
「名前があれば殺すと?」
私が頷くと土方は声を上げて笑った。
何がおかしい。
私は土方を睨んだ。
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