第一章

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朝方、物音がして目が覚めた。 枕元にある刀を手に取り、頭巾を深く被って障子の側へ寄った。 まだ辺りは暗い。 誰…。こんな時間に。 「誰だ」 気配を消していたつもりがバレてしまった。 私は障子を開け、廊下へ出た。 井戸のそばにいた綺麗な黒髪を後ろで束ねようとしていた男の人は私を怪訝そうな顔で見ていた。 「何故、副長の部屋から出てきた」 「昨日、連れてこられたから」 私のその言葉に、深く眉間に皺が寄った。 足に力を入れた瞬間と同時に私は刀に手をかけた。 「やめろ」 その一言で男の人はピタリと動きを止めた。 後ろを振り返るとまだ眠そうに欠伸をしている土方がいた。 「副長、この者は……」 「真白だ。昨日、俺が惚れ込んで連れてきた」 「ほっ…!?」 男の人は一瞬、驚きを隠せずにいたが咳払いと共にすぐに真顔へ戻った。 土方は何を言っているんだろうか。 私の何に惚れたと言うんだ。 「土方、それ、なんか違う」 「貴様…!」 「やめろ、斎藤。こいつはこれでいいんだ」 斎藤と呼ばれた男は私の土方呼びが気に食わないのかすぐに臨戦態勢に入ったが、止められた。 「別に違わねぇよ」 そう言って私の肩に羽織をかけた。 ぶかぶかの大きい羽織だった。 下から見上げるとフッと笑う土方がいた。 どうして、この人は出会ってばかりの私にここまでしてくれるんだろう。
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