第七章 抗えないオメガの運命と……

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「ぃやだ!」  俺は必死に顔を避けた。 「嫌だと言う割には体がだいぶ熱くなってるぞ……」  軽く胸のあたりをまさぐられると俺は「いやぁ」と声を上げてしまった。 「ほら、もうこんなになってる。Hな子だなぁ……」 「ううっ……や……!」  胸を弄られるだけで腰がおかしくなってくる。  沼間の汗ばんだ大きな手に撫でられただけで「あふ……!」と俺は大きな衝撃に思わずのけぞった。 「これだけでもうこんなに発情しているとは……」  沼間の顔はにやけている。  もう俺は抵抗することもできずに体が言うことを聞かなくなっていた。  もう本当に抗えないのかな……。  もう琉にも二度と会えないのかな……。  琉、俺。俺は……。例え運命の糸で繋がれてなかったとしても、つがいじゃなかったとしても、俺はお前が……。  傍にいる時はわからなかった。自分がアルファでいる時もわからなかった。  何もかもが俺たちの前にベールを作って。性別もどうでも良かったんだ。  人種なんて何でもよかった……。  あんな近くにいてくれたのに、近くにいすぎたから?  ごめんな。琉……。  ごめん……。  沼間の手に体を撫でられて俺は情けないことに腰をふりはじめていた。 「凄い欲情だなぁ……。さすが、淫乱中の淫乱のオメガだ」  俺はもう涙が止まらない。  これがオメガの性質だとしたら、悲しすぎる。  俺の意思とは関係なく、俺の体だけが別の人格を持ったように、沼間の体に縋っていた。沼間を求めている。 「可愛い。いい子だ」  自分の声とは思えないほどの嬌声が部屋にこだまする。  俺はもう人形になってしまうんだ。もう俺は……。  沼間とつがいになってしまうんだ……。 (琉……。俺……生まれ変わったら、今度は……今度こそ……お前とつがいになりたい……!)  その時誰かがドアを思い切り明けた。  俺はもう体が動けなかったから、沼間の顔をぼんやりと見ていた。 「……古藪? なんだ? 誰が入っていいと言った」 (古藪先生……?) 「おぬしは間違っているっ、こ、こんなことは!」  古藪が声を震わせて叫んだ。 「アヤト、それは自然に起きた欲情ではない! それは性欲増強剤を飲まされて、その状態になっているんじゃ!」 「馬鹿、言うな……!」  そ、そうなのか……? 「言いたいことはまだあるんじゃが、そ、その前に沼間教授、悪いことは言わない、あんたさんはここから逃げた方がいい。エムルさんとサエカさんが抑え込んどるが、それも時間の問題じゃろう……」  その時突然ドアが蹴破られた。  その者の正体に気づいた沼間の顔色がすーっと変わる。 「お、お前は……」  そこには上半身服がボロボロの男が険しい顔で仁王立ちしていた。  破れた服の隙間から見える胸筋も、上腕筋も盛り上がっていて、怒りに満ちた表情の眉根は深く、目も鋭い眼光で、髪も赤く染まっていて、今にも逆立ちそうだ。  けれど俺はその男を良く知っていた。    ……琉……? もしかして……琉なのか?    特に特徴的なのは琉の耳が尖って大きくなっていた。その先は赤く染まっている。  その形態がどこかで見たことがあるような気がしたが思い出せない。   「俺のアヤトをよくも傷つけたな!」  沼間を睨んだ琉は叫ぶとその後獣のように咆哮した。  見たこともない琉の怒る声と姿に威圧され、周りが畏怖している。  俺は琉の変化に驚いた。  いや、こんな風に怒り狂う琉を幾度か見た。それはいつも俺が危機に面した時にだった。  琉は……どうして俺の為にこんなにいつも怒り狂うんだ。……俺は琉のなんなんだ。  わけもわからず、それでも俺はたまらなく胸が熱くなり、体が震える。  琉を見ると、胸が疼いて……苦しい……。  その場のものは身動ぎ一つできなかった。  次の瞬間、琉が俊敏に動くと、スローモーションのように沼間の巨体が宙に浮いた。  そのまま沼間は床に体を叩きつけられ、琉の威圧にその場にいる誰もが慄く。 「沼間、お前だけは許さない……覚悟するんだな」 「ひっ!」  琉の地の底から聞こえてくるような低く怒りに満ちた声と形相に、思わず沼間は叩きつけられた痛みと共に、震えながら後ずさる。  外から飛んできたサエカとエムルが部屋の窓を叩いた。 「ここから逃げて! もう琉は私たちにはコントロールできない!」  俺の目の前にいる男は明らかに琉だけど、でも全身逆立った獣にみるみる変わってしまった。  こ、これは……! 今はほとんど絶滅したと言われている、あの核戦争を引き起こした。「り、琉、お、お前。特別なアルファだと聞いてはいたが、ま、まさかミュータントなのかっ?!」  沼間の叫び声に俺も反応した。  すぐに部屋の窓を割る音が聞こえると、サエカとエムルが窓から部屋に入って来た。  沼間は琉の怒りに恐れおののき、サエカたちの所に腰を抜かしながらすり寄ると後ろに隠れた。  琉の変化を見た古藪は驚きながらも、沼間に視線を戻す。眉間にしわを寄せ、沼間を嫌なものでも見るような視線を向けていた。   「沼間教授、おぬしこそ、犯罪の根元じゃ、アヤトさんを隠れオメガにして、自分の都合のいいように。琉くんだって、なんだかおかしなことになっているじゃないか。もしかしておぬし、彼にまで何かしていたのか?」 「ば、馬鹿、何を言ってるんだ!」 「……そんなまさか……」  サエカが小さく呟きながら琉に視線を移す。  エムルはそっと俺を縛り付けていた紐を解くと、上着を掛けて、服を整えてくれた。 「琉くん……と言ったね……? おぬしのその状態は獣と人間のミュータント。抑制からの解放されたのか?」  古藪が続ける。 「沼間教授、もともとはアヤトくんのためだと思っていたが、乱用してこんなことに使うなんぞ、呆れてものが言えんわ。彼らを苦しめてるのはおぬしじゃ!」 「ちっ、うるさい。私が薬の開発に手を貸したから、お前にも利益が手に入ったんだろうが、これ以上邪魔をすると、お前もどこかに飛ばすぞ」 「もう話は済んだか?」  沼間の元へ歩み寄ろうとする琉の前にサエカが遮る。 「どけ、サエカ……。俺の大事な物に手を出した。そいつの息の根を止める」 「いけません!」 「ひぃいぃ!」  沼間は情けない声をだして腰を抜かしながら後ずさる。 「琉、待ってください、確かにこの人のやったことは到底許せることではありません。けれど、これ以上はいけません」 「煩い……どかないと、お前を壊すぞ」 「ええ、構いません、私はどうなっても!」  俺は胸が押しつぶされそうになった。  周りの人は彼が怖くて震えているのかもしれないが、俺はそうじゃない。  琉が俺のためにこんな風になって……。  そう思うと胸が苦しくて熱くて、わけがわからない感情になった。 「琉……もうやめてくれ!」  琉がサエカに飛びかかろうとする前に、俺は琉の背中に向かって叫んでいた。  ふと琉が動きを止めゆっくりと顔をこちらに向けた。 「……アヤト」 「俺は、もう大丈夫だから、だから琉……もういいんだ……だからもう止めてくれ!」  俺は琉の傍にゆっくりと近づくとそのまま背中に抱きついた。  力で彼を止めれられるわけがない。  けれど、この激昂が、恐らくいつも俺のせいなのだと思うと、いてもたってもいられない。  あんないつも穏やかで、俺を見守るようにしていつでも自分の助けになってくれた、琉が……。  人々の平等や平和を望んでいる琉が……。  俺の中でその時の穏やかな琉の笑顔が蘇る度に、胸がズキンズキンと痛くなる。  もう止めて欲しかった。    彼は憑き物が落ちたように、ふっといつもの優し気な表情に変わり、俺を見つめた。  俺は少しだけ姿を変えてしまったけれど、自分を取り戻してくれた琉が何よりも嬉しくて、彼を抱きしめた。  琉の汗の匂い……こんなだったかな? 心地いい……。  俺は彼に回した手をもう離したくなくて……。 「琉……会いたかった……! 琉!」 「アヤト……俺は……」 「琉、お前は……どうしていつも俺を助けてくれるんだ?」 「……それは……どうして……なのだろう……。ただ、時々こんな風になる。お前に危害を与えるものを許せなくて、お前を取られたくなくて……俺の血が……そうさせる」 「琉の血が……?」 「俺はお前が傍にいてくれると安心する……小さい頃からそうだった……。俺はお前がアルファだろうがオメガだろうが……関係ない。ただ、お前が大事で傍にいたかった……羅姫アヤトが誰よりも大事だった」  いつもよりもボロボロになっている琉の真っすぐな視線を見ていたら、俺は目の前がぼやけて来た。 「小さい頃?……あっ!」  俺は小さい頃。たぶん琉に会っている。  そうだ、俺が高熱を出して寝込んだ時にそっと俺の前に現れたあの時の耳の大きな子。  耳の先が赤かったのを覚えている。    そっか……お前、そんな前から俺の事ずっとずっと……。  なのに俺が自分をアルファと信じていたし、アルファとの恋愛はないとか言ってお前を遠ざけていたから、お前は俺の気持ちを一番に想ってくれて、何も言えずに……。  頬に温かな物が流れていく。あれ……どうしたんだろう、溢れて止まらない……。 「アヤト……」  琉は視線を落としたまま穏やかな視線で俺を見ると、大きくて綺麗な長い指で、そっと俺の目尻から溢れる涙を拭った。  その時、そんな穏やかな時間をひとすじの鋭い線光が遮った。  一瞬の光は琉の肩を突き抜け、何か温かな物が俺の顔にかかった。  そして、それが血だと気づくのにそう時間はかからなかった。 「琉!」 「うっ……くっ……っ!」  肩から血を流した琉が手で傷口を抑えたまま立膝をつく。  あまりの出来事に俺は言葉を失った。  傷口から血が流れてきて、俺はそれを見ただけで、軽い眩暈がした。  沼間の手にはレーザーガンが握られていて、銃口からたった今放たれたであろうレーザーの収縮するジリジリとした音と白い煙が見える。 「やめっ……!」  俺が叫ぼうとするのと同時にもう一発のレーザーが今度は琉の足を貫く。 「や、やめろぉおおお!」  俺は咄嗟に琉を庇うように立ちふさがった。 「何が、俺のアヤトだ。盛のついた雄め。お前は強力なアルファどころか人間ですらなかったじゃないか。そもそもこれはお前らを助けてくれと双方の両親に泣きつかれたのがきっかけなんだぞ! その後はお前はただの研究材料で……くそっ、経過観察に興味を持つべきではなかった。さっさとお前らを引き離しておけばよかった。アヤトはな、俺の物になった方が幸せになる。俺と結ばれて、沢山の子供を産むんだよ」 「なっ……!」  俺は言葉を失った。俺たちの親はどうして泣きついたんだ?  いや、沼間はいつから俺がオメガだということを知っていたんだ? 「沼間、なんてことを!」  叫ぶサエカたちにも沼間は銃口を突きつけた。 「アンドロイドども、お前らもずっと琉とアヤトの管理をしていたのだから同罪だぞ」 「そんな……ワタシたちは良かれと思って……」 「結果的には運よくここまで持ち堪えられたのだから、良しとすべきなのだろうな。そのまま放置していたら、思春期にはこいつらは原始人なみに、それこそ本能の赴くままにまぐわい続けていただろう……そんな恥知らずなことはこいつらの両親には耐えられなかったはずだ」 「俺の親たちがそんなことを……」 「そうだぞ、アヤト、そんなことにでもなったらみっともなくて表を歩けないとも言っていたな。まぁそうだろう。全くスマートさに欠けるからな。そこで私が知恵を施したんだ。お前が原始に近い存在であると認識すればするほどに、お前は成長する度に抑制薬を使ってもなお、アルファだと血を変えてもなお、美しく艶やかにどこか誘うような大人に成長していく。周りが放っておかなかっただろう? アルファなのに何故こんなに惹かれるのか、他の生徒に悩み相談をされたくらいだぞ。私は傍にいて段々お前が欲しくなった。私なら構わないだろう……。琉のようなミュータントのアルファのような本能的で野蛮なことなど私にはないからな」  琉と俺が? 俺らは原始的なのか……? 「長い間こいつらを見守って調整役をしていたんだ。俺にだって報酬があってもいいだろう?」  沼間はそう言いながらレーザーガンを琉にやサエカ、エムルの眉間を挑発するように交互にポインター光を当てる。琉はもとより、アンドロイドの眉間の奥は非常に大切な回路が埋まっている。そこを狙われるのが一番弱い。  彼らは沼間を睨みながらも、その場から動けないでいた。 「沼間、きっかけはそうだったかもしれないが、おぬしは間違っとる……! そんなやり方以外でももっと彼らを上手く調整できたはずだ」 「煩い、さっきから大事な事ばかり垂れ流しやがって!」  怒り狂った沼間は古藪にもレーザーガンを放った。  胸を射抜かれた古藪がその場に倒れこむ。 「古藪先生!」  すぐに部屋にはOrder Police Corpsの制服を着た男たちが入り込んできた。  それぞれレーザーガンを手に、俺たちや、サエカとエムルの眉間に標準を当てて脅している。 「もうアンドロイドは用済みだ。こいつらの始末を頼む」  お前の方が人間の血が通っているのか疑いたくなるほど、冷たい言葉を発した沼間は、俺の腕を強引に掴むと俺を引きずるようにドアに向かった。 「ア…ヤト……」  琉はその場で動けないでいる。 「嫌だ、琉! くそっ、沼間、放せっ!」  琉の肩や足からはレーザーガンから放たれた光の煙が上がり、血が流れている。  琉は苦しそうに時折片目を細め、それでも沼間から視線を外さず、睨みつけていた。 「琉さん、動かないで、今手当てをしに行きます……あぁお願い!」  サエカが悲痛な声を上げている。 「アヤト、もうこれ以上琉が変になって、暴れられるのは辛いだろう?」 「こいつは暴走すると手がつけられなくなる、その原因はお前にある」 「……俺の? せい……?」 「そうだ。お前が発情するせいで琉は興奮状態になって、自我を失う。暴走に近い状態になるらしいな。もうここらで潮時だろう。お前は琉から離れた方がいい」 「……琉に迷惑がかかる……?」 「お前がこいつを大事に思うのなら、今後の彼の穏やかな生活のためにはお前は毒だ。今のこいつのボロボロの姿を見て、お前は奴が幸せだと思うのか?」  沼間のささやきに俺は胸が痛くなった。自分のせいで、自分の発情のフェロモンのせいで、琉がおかしくなって、狂暴化して本来の形に戻ってしまうのなら、俺は沼間の言う通り害でしかないのか……。   「このままでは琉は更に暴走して、お前に手出しをしたり、引き離そうとする人間たちに危害を与え続けるだろう……そして、最悪、Order Police Corpsの正当防衛で撃たれ死ぬかもしれない」 「……!」 「流石の私も彼を殺してしまうのはどうかとは思うがな。そうなってしまうのが嫌ならお前が俺に素直に従うんだな。お前はお前の運命に従え。俺とお前は許嫁なのだからな」 「な、なにが許嫁だ!」 「ふん、お前と最初に交尾さえしてしまえばお前は俺のものだ。お前は今誘発剤で発情期だ。俺の子供を身ごもれ!」 「そんな……」 「お前が俺とペアになれば、奴も諦める。そして奴は奴でもっと自分が人間らしくいられる相手と結ばれることによって、こんな姿にはならなくなるのだぞ、これは宝田のためでもある」  Order Police Corps達がレーザーガンの赤外線ポイントを琉の眉間に合わせ今にも琉に攻撃してしまいそうだ。  沼間はそれを見てニタニタと粘っこい笑みを浮かべた。   「今また暴れたり、抵抗すると怪我だけではすまんぞ……アンドロイドたち同様、こいつは即死だ」 「くっ……!」  俺は沼間の言う言葉で踏ん張っていた足の力が抜けた。  今ここで抵抗すれば琉がこれ以上酷い目にあう。下手したら殺されてしまうかもしれないんだ。それだけは避けたかった。それに琉が俺のせいでこんな風になってしまっているのだと理解できたからなおさらだ。  俺はオメガでその中でも非常に強いフェロモンを放つらしい。  そのせいで琉がおかしくなるんだ。なにもかも俺のせいだ。  俺たちは館の玄関まで降りてくると、そこにはエアカーが数台、俺は背後にポッドのついた、エアカーに沼間と共に乗せられた。 「今から火星に行こう。お前の両親の前で結婚式を挙げよう。お前のパスポートもできている。そこでの家もあるぞ……不自由はさせない……ただ、俺の子供を沢山産み育てるだけでお前は一生安泰だ……」 「一生……安泰……」  レーザーガンを突きつけられたまま馴れ馴れしく肩を抱かれ、耳元で囁かれた。  俺はそれだけで涙目になる。 「大丈夫だ、お前のやりたい勉強も存分にさせてやるし、贅沢もさせてやる。ただ、夜だけは時間を空けておけよ……ふふ……」 「琉は……琉はどうなるんだ?」 「うん……? そうか気になるのか。そうだな、お前さえ俺と結婚すれば、あいつにはもう危害を与えないでおこう。ただし、琉は火星には来れない。パスポートも作れないようにしてやる」 「彼を殺さないでくれ……彼に今までのように平和で穏やかな日常を……与えてやってくれ……」 「お前が素直に従えば、殺さずに自由にさせてやるよ、地球だけになるがな」 「……本当に?」 「あぁ……。もう互いに抑制薬が効かなくなっているのなら、いっそのこと離れてしまった方が互いのためになる。お前のせいで奴の行動範囲、思考、やれることが狭まっている。中央都市が好きならば好きに転校なりなんなりできるはずなのにな。お前から離れられないのはお前のせいでもあるようだ」  琉……。そうなのか……。  俺は胸元のシャツをぐっと握りしめた。  ふと、フロンの顔を思い出す。そうだ……フロンは琉が好きで……。  フロンの前ではあいつは俺がいる時みたいにおかしくはならない。  フロンが相手なら琉の望むような平和で差別のない世界に彼はいられるかもしれないんだ。    俺はぎゅっと目を閉じた。  こんな状況になって琉を思うとこんなにも胸が張り裂けそうになるのに。どうしてもっと早くそのことに気づくことができなかったのだろうか。    俺は、本当に愚かだったのは俺だ……。  ごめん、琉……。ごめん……。  お前が幸せになるのなら、俺さえ傍からいなくなれば……。    俺は沼間に急かされOrder Police Corpsの数名の護衛たちに囲まれながら、止めてあったエアバイクに乗せられた。  それは後座席が二席あるもので、沼間と俺はそこに乗せられると、久下が先頭にまたがり、エアバイクは滑るように走りながら空中に浮かんだ。  琉は俺が何か危ない目に会うたびに、自分を見失うほどの怒りや、互いの欲望を必死にこらえていた時にも、耐えながら俺の事を俺の気持ちを一番考えてくれていた。  強く抱きしめてくれたあの力強い腕の中は、俺は今まで感じたことがないほど、心の奥が温かく、いや、熱くなった。    彼に俺は……。強く惹かれている……。  ずっと傍にいてくれたのに……。ライバルだと信じて疑わなかったのに……。  でもそれもこれもみんな琉がずっと自分の本性を出さずに俺を包み込むように見守ってくれていたからだ……。    馬鹿……なんでまた涙が溢れるんだよ。止まらないんだよ……。  でももう自分の気持ちに嘘はつけない……。  俺きっと琉が好きなんだ……。琉がどんな種族でも……いいんだ。そんなものはどうでもいいくらいあいつが好きなんだ。
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