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 さまざまなイベントで使用されるメイン州バンゴアのベース・パークの芝地には、オロノ、ウィロー、デリー、ちょっと離れたポートランドから、保護者に連れられてやってきた少年少女らが大勢集まっていた。空は晴れわたり、温かい陽気で、アメリカ東部にしては、この季節にはめずらしく天候にも恵まれていた。  晴天のもと、かれらの手には、長い把手の編籠、フェルト製のバッグに、可愛い模様のはいった缶バケツなどがある。入れ物の内側には、切った紙を鳥の巣のようにして敷きつめてもある。 「あと三分です」と、胸に”Be sure to pay the city tax”(市税はかならず納付しましょう)と、プリントしたティーシャツを着た女がアナウンスを告げた。  きょうは春分の日のあとの最初の満月のつぎの日曜日。イースターのこの日、スタートの合図を待っている少年少女らの見つめるさきには、スーパー・ターゲットのダラースポットなどで売られている、プラスチック製のカラフルな色のたまごがばら撒かれてある。わが子がひとつでも多くのたまごを獲得できるように、ある親は応援、コツを指南していたり、ある親は大人同士の情報交換、歓談に興じていたり、時間はまだ午前十時まえだが、グリルして売れる物なら、なんでもグリルして売る、ベース・パークの名物スタンドで買ってきたリブ肉や、有名なメインのロブスターに、ビール片手に食らいつく親あり。と、皆思いおもいに過ごしている。そんな親たちをよそに、体を前のめりにして、スタートを待つ子供たちのあいだでは、心の裡で競争心がめらめらと燃えていた。  さっきまで、子供たちといっしょに写真を撮ったり、手をつないだり、抱っこしてあげたりしていた着ぐるみのうさぎが、少年少女らにむかって、芝地の上でぴょんぴょん跳ねながら、愛想をふりまいていた。だが、見ようによっては、かれらを挑発しているようにも、扇動しているようにも見える。
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