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 と、かれの頭でしろみと黄身の花火が散った。あたりどころが悪かったのか、警官は体を棒のように真っ直ぐにすると、うつ伏せに倒れた。ヴィクトリアは首を上下に動かして、その一部始終を見届けた。 「なんてこと……」  いくらヘンリーのような不良たちでも、警官にたまごを投げつけるなどという、大それたことはしないだろう。もっとも不良どもは屋台の無銭飲食という悪事を働いていたところで、このエッギング(エッギング。いたずらや嫌がらせで、たまごを人や物に投げつける行為)をしていた者ではなかった。  もっと凶悪な人物の仕業なのか? 反社(マフィア)か、反政府組織(テロリスト)か、バンゴアの市政に不満を持つ左翼組織、いやイースターのイベントに反旗をひるがえす、イスラムやユダヤ教徒たちかもしれない。  ――ヴィクトリアは、事態は思ったよりも深刻なのだ、と緊張を高め、なかば恐怖に慄きながら、不良どもと、警官と、屋台の店主が、パークの出口に通じる遊歩道の途上で転がっている姿を眺めていた。ヴィクトリアは回想した。かれらは不穏分子らの餌食になったのだ。  目の前で警官がたまごを食らってぶっ倒れた。そのとき、ヘンリーたちが警官と店主の制止をふりきって逃げだした。不良どもは、屈強であるが、自分たちを押さえているのが、警官ひとりと、頭の禿げあがった屋台の店主だけだとわかると、三人がかりで押しのけ、ずらかろうとした。  不良たちの背中と、追いかける警官の背中――警官は、腰から四十五口径をひき抜いたが、思いとどまってホルスターにもどしていた――と、警官に加勢する女子むけのスイーツを売る屋台の店主の背中と禿げ頭の後頭部を、ヴィクトリアは目で追っていた。  たまごはぜんぶで五つだった。飛んできたところは見ていない。遊歩道の上で倒れこんでいる、かれらの頭に飛び散っている、しろみと黄身をワンセットとして数えてわかった。都合五個。また、たまごが投げつけられたのだ――と、ヴィクトリアは目をひん剥き現在にひきもどされる。ヴィクトリアの回想を打ちきったのは、また同じ惨劇が目の前で起こったからだ。
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